あたしは朝からワープロに向かっていた。
これは「詐欺」の一端を担うあまりよろしくない仕事だった。
しかし、言い出しっぺはあたしなのだ。
「琴平会」はある指定暴力団の下部組織で、その会頭が蒲生譲二という七十近い男だった。
シノギ(組の収入)を吸い上げるのが「琴平会」の仕事であり、以前のように「薬物(ヤク、シャブ)」や「銃(ハジキ)」ではシノげなくなったのだ。
暴対法の厳しさは昨今の山口組解体事件でも明らかになってるし、北九州のシマは、「ミカジメ」を取れず、ほぼほぼ壊滅状態で、勢力を韓国のマフィアにとってかわられつつあった。
怖さ知らずでは韓国の「オッパ(兄さん)」にはかなわない。
彼らは「半グレ」を使った金塊密輸で莫大な資金を得ているのだった。

そんな中で、あたしは庶民を瞞着する通販サイトを運営する仕事を担っている。
「科学詐欺」である。
ある種のコンプレックスに訴えるサプリメントを売りつけて儲けるものだ。

あたしは蒲生会頭と愛人関係にあり、今でこそ、彼は老体になってその方面はご無沙汰だが、悪知恵だけは健在だった。
「女は乳、男はチンポ、子供は身長」
となぞかけのようなことをベッドで言いだしたのが始まりだった。
「なんですねん?それ」
あたしは、情事の後、バスタオル一枚を体に巻き、髪の毛を鏡台の前で解きながら、鏡越しに蒲生に訊いた。
「コンプレックスやがな」
「はあ?」
「女はいつになっても、お乳の大きさにコンプレックスを持っとる。男は自分のチンポが他人(ひと)より小さいんやないかと思うとる。子供は、子供で自分の身長の低さを心配してるし親もそうや」
「あれですか?その馬鹿に塗る薬ってやつですか?」
「そうや。察しがええな、なおぼん」
「どないしまんね」
「それを考えるのが、なおぼん博士やろ?だてに阪大を出てへんのやろ?」
あたしは、「またか」と思ったが、蒲生は言い出したらきかない。

そうして、あたしは今、ワープロで文章を作っている。
***
あたしって、貧乳なのよね。
夏が憂鬱…
薄着になるとどうしても胸の小さいのが気になって。
男の子って大きい胸の女の子が好きなんでしょ?

あたしの胸、中学生のころから成長が止まっちゃってる。
ちゃんと食べてるし、無理なダイエットもしていないつもり。
なのに、こんなにペチャンコ。
悲しいナ
水着?とんでもない。
プールなんて高校を卒業して以来行ってませんっ!

そんな、あたしがすごいものを見つけたの。
毎日、朝ご飯の前にコップ一杯のお水で飲むだけでこんなにくっきり谷間が!
たった三か月で、走ると重みを感じる胸に、うれしさで胸が張り裂けそう!
(写真挿入、ビフォー)
(写真挿入、アフター)
どう?
すごいでしょ。
まだまだ、おおきくなりそう。
来年の夏は、思い切ってビーチデビューよ。
みてらっしゃい!

****

と、まあこんなぐあいだ。
写真のビフォーとアフターは別人である。
同じビキニを着せて、顔は写さない。
こんなことで、かんたんに人は騙せるのだ。

殿方用のペニス増大サプリのときも、こんな感じで売り出したら、笑いが止まらないくらいに儲かった。

***
おれは、会社旅行が嫌いだ。
なぜって?
みんなと風呂に入るだろう?
そのときに、小さな自分のペニスを気にしてタオルで前を隠しながら…
部長が大きなペニスを、自慢げにぶらぶらさせてタオルは肩に乗せて入ってくるんだ。
おれの部下のAだって、部長に負けないくらい大きかったのにはショックをうけた。
タオルで隠している自分が情けなかった。
かといって、タオルをのけることができなかった。
親指より小さい、こんなペニスをやつらに見られるくらいなら死んだほうがましだった。

それがどうだ?
このサプリを初めて三か月。
見てくれ。
(写真挿入、ビフォー:若頭の中三の息子の半勃起ペニス)
(写真挿入、アフター:若頭自身の勃起ペニス)
今は、おれ、会社旅行の幹事を買って出て、今年は風呂でも隠さず、率先してどうどうと入っている。
毎日の生活まで自信が満ちてきて、そうそう、このあいだ、会社のマドンナ、B子を誘ったら、即OKをもらえた。
男のフェロモンがバンバンにじみ出ていたのだろうか?

B子はイケイケで、カラオケの後、ホテルに直行できたのだ。
以前のおれでは考えられない行動だった。
ホテルのバスルームでおれの股間を見たB子の驚きの顔といったら…
「こんなの、壊れちゃうよぉ」
今では両手でも足りないくらいの数の女性と経験したんだ。

****
ちょっと、アダルトビデオの脚本みたいだけれど、これで十分だった。

薬はOEMの錠剤工場を知っているので、そこにブドウ糖とショウガと山椒の粉末を混ぜて、いりこの粉をスッポンと称しで混ぜ、怪しげな錠剤を作り、小さなポリ瓶に100錠詰めて、派手なシールを貼って、一瓶5,000円ぽっきりで売るのである。
「今ならもう一瓶おまけ」と書くのを忘れずにね。
「ほんなら、原価一本いくらやねん?」とつっこまれそうだけど、つっこむ人はいない。
原価なんて、瓶代が35円、錠剤代が加工費込みで一錠あたり3円×100錠で300円也。

送料こちら負担でも、ぼろ儲けである。

で売れたのか?
最初はもう一つ反響がなかったが、SNSで「琴平会」の若い衆に拡散してもらったところ、ぐんぐん売り上げが伸びてきた。
物が物だけに、クレームもほぼない。
いや、むしろ「効果ありました」なんていう、うれしいメールもいただくくらいだ。
あたしも、飲んでみようかと思ったくらいである。
ぜったい効果なんてないはずなのに…

「詐欺と商売は紙一重」とは、商人の「三方良し」の教えとともに戦陣訓である。
あたしは「左うちわ」を探しに、台所に立った。