「今日は、京都大学理学部霊長類研究所の横山尚子准教授にお越しいただきました。横山先生よろしくお願いいたします」
FM-WAWABUBUの内外小鉄キャスターが横山を紹介した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
横山も会釈する。
「今回はですね、人類の手の長さがどうして今の長さになったのかというテーマで、横山先生の最新の論文からご紹介いただこうと、お招きしました。さっそくですが、人間の手の長さは進化の過程で、この私たちの長さになったんだということですが」
「まず誤解のないように、最初に申し上げておきますが、手の長さと言っても個人差もありますので、身長と手の長さの比がある一定の数値になるということを私共の研究チームで発見したということであり、だいたい、内外さんでも「気をつけ」をして立っていただいて手のひらが、骨盤の下、大腿骨の上部にくるはずなんです」
「はあそうですね」
内外が立ち上がってやってみる。
「これがチンパンジーやボノボ、オランウータン、低地ゴリラ、マウンテンゴリラ、あるいは古代人の人骨と比較しますと明らかにホモ・サピエンスは手が短くなっています」
「ほう」
「それには進化の目的があったんですよ」
「その目的とは?」
「お尻の穴です」
「はあ?」
あまりの突飛な横山の発言で、内外はこけそうになった。
「あなた、しゃがんで大便をしますよね」
「ええ、まあ」
「そうしますと、ホモ・サピエンスはお尻を拭くわけです。違いますか?」
「そりゃそうですとも」
「道具を使うだけじゃなく、ホモ・サピエンスは衛生面でも進化を遂げた。お尻を拭くという行為です」
「なるほど。そうしますと、お尻を拭くという行為からそこに手が届く長さになったと」
「ええ」
内外は、感心したような顔で着席した。
「でもチンパンジーでも、長い手でお尻に届くでしょう?」
「長すぎますし、彼らは尻が汚れても気にしません」
「やっぱり、葉っぱかなにかで我々の先祖は拭くようになったんですかね」
「でしょうね。何で拭いたかはわかりませんが、とにかく彼らは拭きたいという衝動にかられた。だから拭きやすい手の長さになったんです」
「よくわかりましたが、もっと確実な証拠はないんですか?」
「あります」
「それは、なんです?」
「オナニーです」
またまた内外小鉄はずっこけそうになった。椅子が小さいのである。
「人類は一人で楽しむことを覚えました。ホイジンガも言っていますが遊ぶことに熱心なのはヒトの特質です」
「オナニーは人類だけの行為ですか?」
「たしかにチンパンジーに教えればやりますよ。彼らも。でも彼ら自身で開発はできなかった。それで男性ならペニスに届く長さの手が一番良かった。だからこの長さになったんです」
横山が両手を伸ばした。
「それから、手のひらの大きさもオナニーと関連しているんですよ」
「なんですと?」
「こうやって筒状にしてごらんなさい」
横山が手のひらをまるめて握るように筒を作る。
「この筒の直径が男性器の勃起時の太さなんです」
「わお」
自分の手を見て、大げさに内外が驚く。
「このように手の長さや手のひらの大きさはオナニーがしやすいように、また女性がパートナーの手淫を手伝ってやれるように進化したのです」
「衝撃的なお話です。驚いたなぁ」
「人類はセックスに貪欲だった。それは明確な発情期を捨てていつでも妊娠可能な交尾ができることと無関係ではありません。そして性欲のコントロールが群れや社会の安寧につながることも獲得したんです。社会的動物として性欲をコントロールすることは大事なことなんですよ」
「なるほど、なるほど」
内外は大きくうなずいた。
「内外さん、セックスの体位、四十八手はご存知ですか?」
どこに話が飛んでいくのか、内外は測りかねていた。
「言葉は知っていますがね。そんなにあるのかどうかは知りません」
「まあ、誇張かもしれませんが、そういう多彩なセックスの体位を持つ人類は、この手足の長さに関係しているのではあるまいかと、さらに研究を進めているんです」
「ほう、それは興味深いですな」
「そのうち、ネーチャー誌の電子版にアップするつもりです」
「いやあ、きょうはどうもありがとうございました」
「どうも」
内外は自分の手のひらを見つめながら、対談を終えた。

※参考文献 更科功著『絶滅の人類史』NHK出版新書