私は、私立四葉(よつば)学園高校野球部監督を拝命していた。
とうとう甲子園にやってきた。
※群馬県伊勢崎市の「市立四ツ葉学園」とはまったく関係がありません。

監督が女性であるということで以前から注目もされ、誹謗中傷も受けてきた。
2020年の東京オリンピック以後、女子の選手の出場が限定的に認められ、当校にもショートとセカンドに二人の女子選手を採用している。

高校野球は、ドラマ性があるけれどその裏には、どろどろの人間関係がある。
決して清廉潔白などではありはしない。
私も理事長の愛人を経て、ここに納まっている。
もともと軟式野球の選手だった私は、野球好きの理事長、長谷部賢治に「やってみろ」と勧められた。
県大会に出場し、最初はコテンパンにやられた。コールド負けだった。
その翌年から、私は鬼になった。
今はトレードマークとなった「竹刀(しない)」も、もう百本を越えた。
一か月でボロボロに壊れてしまうからだ。
「シゴキと暴力は違うんじゃ!これは愛じゃ!」
私は理事長の庇護を笠に着て、竹刀を遠慮なくふるった。

内藤綾子は二年生ながらも、瞬発力と動体視力の良さで四葉野球部の名ショートを担っている。
その親友の、川瀬玲央(れお)は175㎝の長身で、もとは女子バレーボール部だったが、私が引っこ抜いたのだ。
「甲子園に行きたないんか!なんじゃ、そのチンタラした走りは!」
「こらぁ、レオ!バットをまたぐな言うてるやろ。ケツだせぇ」
おもいっきり玲央に、私は王貞治よろしく片足に全体重をあずけ、竹刀をふりおろす。
スライディングパンツを履かせているから遠慮はいらない。
バッシィ~ン!
「ぎゃっ!」
「どうや。痛いか。これはバットの気持ちじゃ」
そう言って、レオを鍛えた。
「ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げて、川瀬玲央がフィールドに駆けていった。

甲子園の一塁側ベンチで私は感慨にふけっていた。
「とうとう来たぜよ」
私は愛用の竹刀のつかにあごを乗せて、にんまりとマウンドをながめた。
私の竹刀にはつばがない。必要がないからだ。
男の子にも容赦はしなかった。
サインの読み違いには厳しく竹刀をくれてやる。
「ぼけが、勝手にバントからヒッティングに変えるなや!サインを見てへんかったやろ」
「す、すんません」
「ケツだせ」
こんな具合だ。
ヘルメットの上からシバくこともあった。
記者に写真を撮られて、謝罪させられたこともあった。
口先だけで謝ったが、私の方針は変わらない。
逆にますます、竹刀が破損した。
ベンチをどついたり、地面をたたくからだ。
「おりゃぁ!一塁ベースカバーはおまえやろぉ!なに、ぼけっとつったっとんね!」
「そんな凡フライ、落とすなや。どこ目ぇつけとんね。メクラかお前は」
「バントシフトはどないすんねんや?さっき言うたやろ。1,2塁間ガラアキやんけ」
「あたしの目の黒いうちは四球押し出しは許さへんで。わかっとんな!」
「当たってもええから塁に出んかい」
私の怒号がフィールドにこだまする。
ああ、夏の甲子園。
いい季節だ。
「しまって行こうで!」
サイレンが高らかに鳴った。

そういう夢を見た。
しかしひどい監督さんやねぇ。
私の地が出てるなぁ。