「ああん、いい、すごくいい」
私の上で女が首をのけぞらせながら腰を打ち付けている。
まるでタヒチアンダンスを踊る女のような律子だった。

私は、またもや律子に誘い出され、京都の以前に訪れたホテルにいた。
そして、角野さんの手前、二度と律子には会うまいと誓ったのにこの様だった。
小悪魔的な律子の誘惑に私が負けたのだった。

私もベッドの弾力を使って、律子を突き上げる。
「あひゅうっ!」
「りつこっ!」「ねえ、その角野さんとかとやったんでしょ」「え、ああ」「あたしよりよかった?」「いや、君の方がいいよ…」
私は、心無いことをその場しのぎで言っていた。
「あんなおばさんより、いいでしょ」「どうしてそんなに比べたがる?」「なんか嫌なのよ」
私の肩に手をついて、腰だけをくいくい動かして、私を絞る。
「いいじゃないか。君は君さ」「ふん…あたしの虜にしてあげるから」
そういうと、結合を解き、そそり立つペニスに唾を噴きかけ、大きな口を開けて頬張ったのだ。
舌が柱にまとわりつき、歯が当たらない程度で亀頭を歯先で掻く。
「おふぅ…すごいなその技」
「どう?」と目で言う。
このままでは角野秀子を裏切ることになるだろう。いや、もう裏切っているではないか。
人倫に反する行いだった。
「飯塚とは、こういうことをしなかったのかい?」私は反対に尋ねた。
「したわ。そしたら、お前は商売女みたいだなんて言うの」
「あいつらしくないな。そういう女とばかり遊んできたはずなのにね」
「でしょう?あなたみたいに硬くなくって、長持ちしないのよ」
「そうなのか?意外だな。なんかの病気だったのだろうか」「糖尿よ。たぶん」「なるほど」

律子のしゃぶり方が、どんな男性遍歴を経てきたかを、間接的に示している。
飯塚が興ざめしたのもうなずけた。
しかし、私にはそういう免疫がないので、ますます律子の性技に感嘆するのだった。
赤黒く変色した亀頭部が律子の唾液でぬらぬらと光り、室内の間接照明に照らし出される。
「ほんと、しゃぶりがいのあるおちんちんねぇ」
「そうかい?」「あの人もしゃぶってくれた?」「いや、そういう人じゃないんだ」「ふぅん」
秀子は、処女だった。私の思う限り…
クンニリングスをするのにも、すごく恥ずかしがった。
私はそんな秀子に口淫を強要することができなかった。
亀頭を吸い上げ、痛痒くなってくる。
「うくっ、それやばいよ」
「そう?もう逝っちゃう?」「口にかい?」「いいわよ。飲んであげる」
そんなことを言うのである。
最初会った時の律子のイメージは完全に覆されている。
やはり劇団員との異常な性交体験がもたらしたものに違いないと思った。
律子の首の動きが速くなり、じゅぼじゅぼと音を立てて、つばきをしぶかせながら、私の勃起を刺激した。
彼女の胎内に入れているがごとく、口の中で私はとろけさせられる。
「ああっ、ああいいっ、いっくぅ」
私は情けない声を上げ、陥落した。
どっぴゅうううう…
彼女の喉奥へ、怒涛の精液をしぶかせたのだった。
「あふわふ…」律子が目を白黒させて、口角からだらだらと白濁液を漏らした。
私はティッシュを探って、数枚激しく取って律子の口に当ててやった。

「うふぅ」
「飲んだのかい?」「うん」
目に涙を浮かべて、律子がうなずいた。
そんなに多かったのだろうか。あごの方に精液が垂れて光っている。
「すっごい、たくさん」
「すまない」「いいのよ。あたしうれしいんだから」「そんなもんかね」
ティッシュの団子をベッドサイドの屑籠に投げ入れた。重い音がした。

しぼんだペニスを股間に寝かせながら、私は律子を腕(かいな)に抱いた。
そうして、長い柔らかな髪を撫でていると、角野秀子への悔悟の念が沸き起こった。
私は嘆息した。
「どうしたの。ため息なんかついちゃって」「いや、なんでもない。疲れただけさ」「ほんとぅ?」
本当のことは言えなかったが、律子は察しているだろう。
「ごめんなさいね。戸田さんの邪魔をして」
誤ったのは律子の方だった。
「あ、いや、誤るのは私の方だよ」
「角野さんには、内緒にしてね」
「言えるわけないだろう」「それもそうね」
しばらく私たちはベッドでまどろんだ。

私は飯塚の夢を見た。
「お前たちは地獄に落ちるのだ」
そうはっきりと飯塚の声が聞こえた。
言いようのない不安が私を襲った。