韓国ムン・ジェイン政権が日本政府への対抗措置として、今度は「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)」を解除すると一方的に明示してきた。
これに対して日本政府の河野外務大臣は「(日韓の)安全保障環境を完全に見誤った対応だ。韓国政府に賢明な対応を強く求める」などと口を極めて批判した。

私は、恥ずかしながらGSOMIAについて何も知らなかった。
この協定の歴史は2010年にまでさかのぼる。
つまり日本が民主党政権だったころの話なのだ。
そのときの外務大臣が前原誠司だった。
協定の内容はざっくりと言えば北朝鮮に関する軍事情報を日韓で共有し、また外に漏らさないというものだ。

この協定を結ぶにあたって、韓国側でもめ事があったらしく、調印の「ドタキャン」があった(2012年)。
韓国の政権は内政と深くかかわっている。
つまり国内世論におもねった政策が採られるのだ。
政権が交代すると前大統領は、あることないことで裁判に掛けられ、有罪になり投獄されるのがオチである。
ムン・ジェイン氏の師、ノ・ムヒョン元大統領が投獄され、自殺に追い込まれたことを、ムン大統領はずっと根に持っており、自身の政権維持、立場の維持のためにはなりふり構わない態度が、今回の問題でもよく出ていると私は感じる。
彼は、親北朝鮮の気持ちで半島統一を夢見て、政治に勤しんできた。
キム・ジョンウン委員長との握手を交わしたにもかかわらず、キム委員長の期待を裏切り、信頼を失ったムン大統領は、支持率も下げた。
経済政策の失策が支持率低下の原因にもかかわらずその対策を打たないムン政権にNOを韓国国民は出しているのである。
ムン政権としては、反日で国内をまとめるしかなかった。

話を戻して、ドタキャン事件の当時がイ・ミョンバク政権であって、反日感情の強い政権だったことから韓国の保守層のGSOMIA調印反対運動が起こったのだった。
この年に、アメリカのニュージャージー州に、在米韓国人によって設置された日本軍従軍慰安婦像を日本の申し入れで撤去させようとしたことが調印拒否(延期)の原因だったようだ。

年月がいたずらに流れ、政権もパク・クネ政権になった2016年にあらためてGSOMIAの協定締結の運びとなった。
安倍晋三首相との間で、パク大統領の裁可でGSOMIAは成立したのである。

いったい、この協定で日韓どっちに利益があるのだろうか?
北朝鮮のミサイルや核開発についての情報は韓国軍のほうが地の利もあって入手しやすいだろうと考えられる。
一方で、日本は米軍を通してしか北朝鮮側の情報を得られていない。
もちろん、日本の独自の衛星による探索や、脱北者からの聞き取りなど、日本政府にしかわからない情報もないとは言えず、韓国軍としては共有したい気持ちはあるだろう。
そして日韓のみならず、極東の安全保障という面からはアメリカ政府もこの協定締結を支持していると考えられる。
ただ、GSOMIAについてアメリカ政府の見解はトランプ大統領になってから表明されていて、それも今回、日韓の関係が悪化し、GSOMIA破棄という結末を迎えて初めてマーク・エスパー国防長官やポンペオ国務長官が懸念を示す談話を発表するというバタバタ感が拭えない。

韓国政府が日本の対韓国制裁に対抗する意味でGSOMIAを破棄するというのは、いささか乱暴な行為だと私も思うが、考えてみれば、その程度の協定だったのだという感じもする。
韓国政府はたいしてGSOMIAによって受けた恩恵は多くなかった…と考えていたから「捨て駒」にできたのだろう。
理性的な日本政府としては驚くほかない。
「そこまでするか?」というのが正直な気持ちだろう。
GSOMIAは日韓のお付き合い程度の関係を保つ協定であり、実質はともなっていなかったのだろう。
だから、両国国民にも認知されておらず、米政府も「またやっとるわ」程度の認識で談話を発表しているにすぎない。
すると、「ムン・ジェイン政権は墓穴を掘った」とか、「困るのは韓国だ」とか日本人が騒いでも、彼らにとっては片腹痛しということか?
ムン氏は北の出身(朝鮮戦争避難民の子)だというらしいから、北朝鮮にはひとしおを思い入れがあるのだろう。
だとすれば、ムン氏がキム委員長に近づく「手土産」に日本とのGSOMIA破棄を考え付いたとしてもおかしくない(コリアレポート、ピョン・ジンイル(辺真一)氏談)。

ただ、私は「悪手か妙手か」とこの問題を問われたら「悪手」だと答えるだろう。
決して、妙手ではない。
日本も韓国も「ヘボ将棋」に陥っている。
こんな外交は久しく見たことがない。
噴飯ものだ。
どっちも悪手を指すから、玉が詰まない。
終わりが見えない将棋である。