「そらね、役満でいちばん上がりやすいのは「四暗刻」でっしゃろ」と、センセが乾いた羊羹を嚙みながら言う。
あたしも、何度か上がったことがある。

がっちゃんが、聴牌(てんぱい)タバコに火をつける。
この人は手がいいとタバコを口にする。
下家(しもちゃ)の山ちゃんは、すぐに顔に出る。
対面(といめん)の「センセ」は産婦人科のヤブ院長や。
「藪さんという苗字のひとは医者になったらあきまへんな」
「へっ。ヤブ医者でんもんな。せんせ矢部(やべ)やろ?あぶないな」
「黙(だあ)ってぇ」
「それポン」と山ちゃん。センセの捨てたウーピンを拾う。
「なんや、またトイトイけ?芸ないね」とはがっちゃん。

四暗刻はシャボン(シャンポン待ち)か単騎待ちになるんやけど、シャボンの場合、暗刻(あんこ)条件やから、自模らないといけない。
単騎ならロン上がりも可能だ。
リーチかけてのシャボン待ちやと、運悪くロン上がりになればトイトイの二翻になっちまう。

あたしは、今回手が良かった。
すでに一盃口が手牌にあり、そこからの暗刻ぞろいでシャボン待ちに持ってきた。
まだ五巡目だ。
あたしはリーチは宣言せず黙聴(だまてん)を決め込んだ。
「なおぼん、麻雀っていつごろ覚えたん?」
牌を切りながらがっちゃんが問う。
「あたし?大学の四回生かな。卒研の研究室配属になって、そこが留年組の巣窟でね、あたしに悪い遊びばっかり教えるのよ」
「それチー」
「ほんで雀荘に入りびたりってか」
三萬、四萬どっちか来てくれぇ…
「ほうよ…来たぁ!四暗刻、自摸上がりぃ」
あたしは四萬(スーワン)を握って叫んだ。

「わちゃぁ」「あ~あ」みんなの落胆顔が小気味よい。
あたしは、ハコシタから這い上がったのだった。