衣替えの季節には、和装の場合「樟脳(しょうのう)」という防虫剤を入れ替える。
「樟脳」はその名の通り、楠(クスノキ)の樹脂(脳)である。
化学的には「カンファー」というテルペノイドに属する有機化合物で、純品は白色結晶だ。
「カンフル剤」という強心剤はこれのことで、今はその用途では使われない。
似たものに「龍脳」あるいは「ボルネオール」という化合物があるが、これはカンファー(ケトン型)を還元してアルコール型にしたもので、天然にはボルネオ産の龍脳樹(クスノキの仲間)から得られるのでこの名がある。
もちろんボルネオールにも防虫効果があるので「樟脳」も「龍脳」もひっくるめて「樟脳」と呼んでいるかもしれない。

樟脳には特有の香りがあり、クスノキの葉や枝をつぶしたときにも強く香るあの匂いである。
だから、クスノキの木くずを防虫剤に使ってもよい。
クスノキ材のタンスならなおよいかもしれない。

さて、樟脳には昔からブランドがあり、和服の好きな母は必ず薬局で「藤沢樟脳」という「鍾馗様」のマークの入った樟脳を買い求めていた。
化成品の防虫剤では和服の金糸や銀糸がくすんだり、染が変色したりするのだそうだ。
藤沢樟脳鍾馗様
藤沢樟脳
こういうパッケージをご覧になったことがあるだろうか?
若い人は知らないかもしれないが、お祖母さんと一緒に暮らしていた人なら見たことがあるかもしれない。
今も、売っているようだが、べらぼうな価格になっていてレア品のようだ(製造中止で在庫品だけなのかも)。
上の画像はAmazonから拝借したもの。ひと箱7800円の上代がついている(本来は800~900円相当)。
販売者が「第一三共ヘルスケア株式会社」になっていて、製造は日本精化株式会社だそうだ。
※現在「藤沢樟脳」は製造されておらず、「内野樟脳」(福岡県)と「日向しょうのう」(宮崎県)の二社が天然樟脳を扱っているようだ。台湾製の天然品も流通している。和服やひな人形の防虫にはやはり樟脳が安心して使えるし、香りも優しい。

衣替えの頃の母の匂いは、樟脳だった…

しゃうなう舟 想いはつのる 母の襟 (尚子)
樟脳香 母の面影 衣替え (尚子)
樟脳の結晶のかけらを厚紙で作った舟形の尾部に張り付けて水面に置くと、樟脳が昇華して推進力を生んで舟が進む。そのときに樟脳の香りも立ち昇るのだった。