私は高校生の頃こんな間違いをして恥をかいたことがあった。
「乾燥空気中の音速をだいたい331m/secとして…」
ドップラー効果の問題だったと思う。
この文の何が間違いかというと、単位なのだった。
わたしは「秒:second」と覚えて、ノートにもその略としてどうどうと「sec」を使って、いきがっていた。
そのころ二級アマチュア無線技士のライセンスも持っていたから、偉そうに横文字でチャラチャラ書いていたんだね。
ところが物理の先生に「秒」の単位のところを、のきなみバッテンを食らったのでした。
おまけにこのドップラーの問題の私の答えも間違っていたと記憶している。
その誤答のことよりも単位の間違いを指摘されたことのほうが私にはこたえた。

で、正解は「s」なのである。
秒を表す単位は、小文字のs、なんのことはない、教科書を良く読めばそう書いてある。
私も、往生際が悪いから先生に質問に行ったのよ。すると、
「横山さんの言うこともわかるけどね、secは数学では正割(せいかつ)つまりセカントと間違うからや。セカントは数Ⅱで習うてるやろ?」
「ああ、そうかぁ」
「それに、横山さんは化学に進むって言うてたな。そやったら化学でのsecは「第二の」っていう意味でもあるんや、山本先生に質問してみ」
「へえ」

そうなのだ。
高校生の私は化学(有機化学)での接頭語「sec-」を知らなかったけれど、大学になれば「prim-第一の」「sec-第二の」「tert-第三の」という炭素原子の置換状態を表す接頭語を使うようになった。
たとえば、メタノール(メチルアルコール)はCH3-OHと書くが、この場合の炭素原子の水酸基に対する置換状態が「prim(プライマリー)炭素」という。
炭素原子の置換状態とは、メタン(CH4)を基本に炭素の周りを水素原子が四つ共有結合したものから、その水素の一つを水酸基に取り換える(置換する)と「prim」と接頭語(詞)をつけて炭素の置換状況を表現するのである。
しかし、プライマリー状態の炭素はあえて「prim」をつけなくてもわかるので省略される。
大事なのは「第二」以降である。
イソプロパノール(イソプロピルアルコール)には水酸基の位置によって二種類の構造異性体が存在する。
1‐プロパノールと2‐プロパノールである。
2‐プロパノールの水酸基が置換している炭素原子が「sec-」である。
この炭素を注目すると、
H3C
  >CH-OH
H3C

炭素原子の周りの水酸基の置換している腕を除いて二つの腕にはそれぞれメチル基が置換している。
残った腕に一つだけ水素原子がついている。
これを「sec-(セカンダリー)」の炭素という。
すると「tert-(ターシャリー)」の炭素とは、ブタノール(ブチルアルコール)の場合で説明すると、水酸基が一つ置換した炭素の残りの腕の水素原子がすべてメチル基が置換しているものをいう。
(CH3)3C-OH(tert-butanol)

有機化学でいう「置換」とは炭素、窒素などの中心元素に水素が共有結合している形を基本形とし、その水素原子を別の元素や置換基に置き換えることを言うのである。
たとえば、アンモニア(NH3)を基本形として、この水素原子の二つをメチル基に置き換えると(CH3)2NH(ジメチルアミン)といい、これはsec-amine(2級アミン)になる。
アミンの場合、最大quarternary-ammonium(4級アンモニウム)というカチオン(陽イオン)の形まである。

化学反応の起こりやすさからいうと、prim炭素より、sec炭素のほうが活性で、つまり残った一個の水素原子が他のものと置換されやすいというわけだ。
つまり、I効果と呼ばれるものだ。
反対にtert炭素は不活性で、さらに立体的にかさばっているので立体障害を起こし反応しにくい。
またこのかさばりを利用して不安定なラジカル(遊離基)を閉じ込める働きを持たせることができる。