飼い猫が行方不明になったとき、近所のおばあちゃんが、こういう和歌を記(しる)したお札を玄関に貼っておくか、愛猫の食器を伏せてその下にこの和歌の短冊を挟んでおくと、無事に帰ってくると言っていたので紹介する(内田百閒の『ノラや』にも同じエピソードがある)。

たちわかれ いなはのやまの みねにおふる まつとしきかは いまかへりこむ

これは中納言在原行平(ありわらのゆきひら)の古今集に採られている和歌で、百人一首でもおなじみだ。
行平は平安のプレイボーイ在原業平(なりひら)の兄であり、この兄弟は平城(へいぜい)天皇の孫にあたる貴種中の貴種である。

「これからお別れして、私は赴任先の因幡の国に旅立ちますが、その因幡山に生えている松ではないですが、あなたが私を待っているよと聞けば、私はたちどころに帰ってまいりますとも」

というような、都に残した愛人に後ろ髪を引かれる思いを歌ったものだろう。
『古今和歌集』の詞(ことば)書きに行平は斉衡二年(855年)に因幡守に任じられたとあるので、その時の作であろう。

このおまじない、失(う)せ物一般にも効き目ありということなので試されてはいかがかな?

ときに、行平鍋(雪平鍋)は在原行平にちなむと言うが、どうなんだろ?