あたしは、生理になると痛みが激しく、その日のプールの授業を見学にしてもらうために体育準備室に行った。
「よし、ほなら横山はプールサイドで見学しておきなさい」
体育の塚本先生は五分刈りの頭を掻き上げながら、快く許してくれた。
先生のジャージから胸毛が覗いている。
下は水着だから当然だけど。

プールサイドには塩見君という細い男の子がやはり、開襟シャツで見学していた。
「よっ」
彼は、あたしを見て声をかけてきた。
「なんや、塩見君も見学かぁ」
「おまえは、どっか具合悪いんか?」
「うん、アレの日」
「あ、そっか。おれは、横山やから言うけど、ゲリゲリなんや。朝から」
苦笑いで、そう言った。
「ゲーリー・クーパーやな」
「そんなええもんかい。でもおもろいな」

あたしと塩見君は、けっこう何でも話す間柄だった。
べつに彼氏とかじゃなくって、落ちる話や汚い話が好きで馬が合うというか・・・
深夜放送フリークなんだよね。お互い。

「無理して入ってプールで爆発したら大ブーイングやで」
「ほやろ?プールの水、総入れ替えや」

「やめてぇ。笑わさんといてって。お腹痛いんやから。変なもん食べたんやろ?」
「たぶん、冷えたんやろーな?それと、オヤジが焼肉を食いに連れていってくれてん、昨日。それもあるかも」
「ええなぁ。生レバ食べたんやない?」
「生レバは嫌いねん。でもタルタルステーキを食った」
「あれも生やからね。やばいで」
「あ、すまん。オレ、トイレ」
「ナプキン貸そか?」
「あほ。冗談いうてるばあいやない・・・」
そう言って、塩見君、スタスタと行ってしまった。

そんなことを話しているあいだに、クラスのみんなが着替えてワイワイとプールサイドに集合し出した。足洗いをキャッキャッと言いながら女子が通過する。
その後、シャワー。

「なおこ、今日、見学?」仲良しの木村さんが頭からしずくをしたたらせてきた。
「うん、アレで」とあたし。
「そっかぁ」
あたしは、コンクリートの上に残った彼女の足跡を目で追っていた。
「ほんとは、入りたいんやけどな・・・」

ピリリッ
塚本先生の笛が鳴った。
「はい、整列。今日は、キックターンをやって、五十メートルを泳いでもらう。型はヒラかクロールどっちでもええから」
先生が飛び込み台の上に立って説明した。

ぺたぺたと、足音が近づいてきて、塩見君が帰ってきた。
「もうちょっとで、やばかったぁ」上気した顔でそう言った。
「大丈夫?汚したんちゃうん?」とあたし。
「臭うか?」くったくのない彼。
「やめてや。ううん。においはせえへん」と言ってあげたけど。
まさかお尻を嗅ぐこともできないしさ。
「よかった」安堵の表情であたしの横で体育座りをした。

バッシャーン
水しぶきが目の前に上がる。
水泳の授業が始まったのだ。
中学校ともなると、飛び込んでスタートしなければならない。
「あいつ、腹打ったやろな」塩見君が肥えた中川君の飛び込みを見て言う。
「ふふふ」あたしは笑うしかなかった。
女子は向こう側の遠いところなので、ここからはあまりよく見えない。
でも女子の飛び込みは、おそるおそるって感じで、まったくかっこよくない。
たまに、きれいに飛び込む子がいるなと思ったら、水泳部の藤田さんと杉村さんだった。
中村君が、あたしよりおっきなおっぱいをゆらしてプールサイドを歩く。
お腹が、真っ赤だ。
「な、中村、腹を打ったんや。だいたい、太りすぎなんやて」
「痛いやろなぁ」
「わかるかい。あいつの腹じゃ」とひどいことを言う。

空にはいわし雲。
もう秋だ。

今週で、今年のプールの授業は終わりなんだと思うと、今日の見学は残念でならないと思ったよ。


なおぼんの思い出でした。