どこをどう歩いたのか、皆目わからなかった。
あたしは、裸足で松林をさまよっていた。

重吉(じゅうきち)の手から逃れるのが精一杯でここまできた。
年老いて節くれだった重吉の手があたしの股間をまさぐった。
思い出すだけでもぞっとした。

鷲尾山の麓あたりかしら。
樵(きこり)小屋が見えた。
マタギのサブの棲家だろう。
ひとすじの煙が立ち昇っている。
あたしは、サブに助けを求めようと足を速めた。

焚き火をしようと焚きつけているサブの後姿が見えた。
あたしの足音に気づいて振り返る。
「なおぼん」
「サブちゃん」
屈託のない笑顔があたしを待っていた。
「なおぼん、どうしたんや。裸足で。何があった」
サブは両手であたしの肩をつかんで問うた。
「あたし、あたし・・・」
言葉に詰まって、涙があふれた。
サブは軽々とあたしを抱えて、小屋に入った。
そして、土間から一段高い蚕棚(かいこだな)のような寝床に寝かされた。

しばらくして、熱い粕湯酒(かすゆざけ)を湯飲みに入れて持ってきてくれた。
茶色の湯飲みは、大きく欠けていた。
サブはもう何も訊かなかった。
人心地つくと、周りが見えてきた。
明かりのない樵小屋。
あたしは、初めてここに来た。
壁には村田銃が掛けてある。
サブが、命の次に大切なものだと言っていた。
カンテキに炭をいこして暖を取るようにしてくれていた。
「サブちゃん。あたし」
「重吉っつぁんやろ」
図星だった。
「おっちゃんに、手篭めにされそうになった」
「初めてか?前にもあったんか?」
「初めて。でも、でも、あたし、サブちゃんと」
「あほ。俺とは一緒になられん。マタギは娶らんのが昔からの道理や」
サブとは、幼馴染やった。
サブの父親がこのあたり一帯を縄張りとし、鹿やウサギ、いのししなどを狩って暮らしを立てていた。
重吉は、捨てられていたあたしを拾って、わが子のように育ててくれた、養い父である。
妻の秀子(ひでこ)が三年ほど前に心の臓を患って急死した。
表向きはそうだが、絶倫な重吉に逝かされてしまったというのが正直なところである。

秀子おばちゃんは、やさしい人やった。
おっぱいが大きくて、そのやわらかい胸に抱かれてあやされる幼かったあたしの記憶がついこの間のように思い出される。
母を知らないあたしにとって、おばちゃんこそ母だった。

そろそろ月の物が訪れるようになったあたしに、重吉の魔手が伸びた。
最初は、膨らみかけたお乳をまさぐられるだけだった。
そのうち、重吉の恐ろしく巨大な男根をさすらされた。
無言で、恐い顔をしてあたしに坊主頭をした熱い棒を握らせるのだ。
両手に余るそれを、だるくなるまで扱かされる。
しまいに、吠えるような声を上げて、粘い、重湯(おもゆ)のような小便を撒き散らすのだ。
その匂いときたら、栗の花が盛りのころのあの匂い。

「もう、あっちへ行け」
出し終わると重吉は、つっけんどんにあたしにそう言うのだった。

あたしは、それが「子種」だということを教わった。
これを、毎月、血が染み出す穴に入れられると、孕むのだそうだ。
「どうやって、入れるのやろ」
あたしは疑問だったが、ある日、それは氷解した。
飼い犬のシロが向かいの飼い犬ハナと交尾したのを見たからだ。
「だったら、あの太い、こん棒みたいなのがここに入るんか」
重吉のモノを知っているあたしは、少なからず恐怖を感じた。

「で、逃げてきたんか」
サブの声であたしは現実に引き戻された。
「うん」
「足、傷だらけやな」
「うん」
「かわいそうに」
「サブちゃん」

夕日が壁の隙間から滲んできた。
もう夕暮れなのだ。
サブの手があたしのあたまを撫でる。
あたしは、サブのほうにもたれかかる。
サブはあたしより三つ年上のはずだった。
サブの父親、伝蔵さんも亡くなった。
熊に襲われて、逃げるときに足を滑らせ、カジカ沢に転落したのは一昨年のことやった。
だからあの銃は形見なのだ。
サブの手があたしの胸を探している。
あたしは、着物を緩め、手を入れやすくしてやった。
「なおぼん」
サブの息遣いが荒くなっていた。
あたしは、サブに犯されることを望んでいた。
重吉に奪われるのなら、大好きなサブにあげたい。
「サブちゃん。して」
「ええのか?」
「うん。サブちゃんにしてほしい」
もうあたりは暗くなっていた。
あたしたちは、生まれたままの姿で抱き合っていた。
あたしの薄い胸をぺろぺろと子犬のようにサブがなめてくれる。
手が恐る恐る、あたしの谷間に伸び、下萌えをかき分ける。
「あはん」
思わず声が出た。
ざらついた指先を感じて、腰が引ける。
サブの手があたしの右手をつかんで、導いた。
そこには、やはり熱い雄の器官があった。
重吉ほどの大きさはないが、しっかり硬かった。
あたしは、覚えたての技でその棒をしごいた。
びくっ、びくっと震える男根。
サブは童貞なのかもしれない。
山で一人で暮らしているのだから、当然といえば当然なのかもしれない。
村の若衆とは交わらないし、向こうからも近づかない。
やわやわと坊主頭をもみしだき、先走りの汁を重吉に教わったように塗り広げていった。
「あうっ」
サブの体が震え、とたんに男根から熱い子種が噴出した。
何度も手のひらに叩きつけるようにしぶきが当たり、あたしは受け止めようと先っぽを包むようにした。
「すまん。逝っちまった」
「いいよ。いいよ。あたしがやりすぎた。ごめんね。恥かかせて・・・」
あたしは、詫びた。
サブに申し訳ないことをしてしまった。
女に入れる前に暴発させてしまっては、男として恥ずかしいものであることくらいあたしは承知していた。

カンテキの熾き火を眺めながら、あたしはサブの匂いの染み付いた夜具に包まれていた。
「おれさ、女、知らんのや」
「あたしかて、まだオボコよ」
「うまくできるか、わからんけど」
「サブちゃんに抱かれるだけでええのよ。あたし」
「なおぼん。ほんまは好きや」
「あたしも。サブちゃん」
あたしからサブに絡みついた。
もうサブは十分に回復していた。
臍に当たるくらいに反り返っていた。
それはどこか、村田銃の銃身に似ていた。
一度出した男は、長持ちする・・・
それは本当だった。
サブは、人が変わったように余裕で、あたしの感じやすい部分を舌で、指で、攻め立ててきた。
わきの下の毛を舐められ、唇で引っ張られた。
くすぐったいが、たまらなかった。
あたしも、濃い匂いを放つサブのわき毛を舐めた。
獣のような香りは、そのままこの小屋に満ちている香りだと気づいた。

重吉とは違う若者の華奢な指があたしの秘処を巡る。
あふれる泉にたどり着き、その粘性を確かめるように花びらに塗り広げられる。
実(さね)のことは知らないのだろうか?
そこになかなか到達してくれない。
あたしはもどかしくなって、サブの熱い手をそこに導いた。
「あの。ここを、さわって・・・」
言うのが精一杯だった。
あたしも、この部分が感じるのを知ったのはつい先だってのこと。
重吉に望まぬ愛撫をされ、それでも体は正直だった。
「ここか?なんか、いぼのような」
「そこ。やさしくして」
「ああ、かわいいな、なおは」
「サブ・・・」

サブ・・・三郎は三人兄弟になるはずだった。
長男も次男も幼くして結核で亡くなった。
そして、母は三郎を産んでのち、肥立ちが悪く、先に逝ってしまった。
「かわいそうな、サブちゃん」
あたしのほうが年下なのに、姉のように慕ってくれた。
あたしの中に、亡き母を見出していたのかもしれない。
「入れてみる」
サブはあたしの股を左右に広げて、その間に割り込んだ。
どうか、うまくいきますように・・・
あたしも願った。
サブが、あたしの濡れそぼった割れ目にあてがわれた。
「そう、そこ」
「暗くて見えないな」
でも、勘どころを突いて、サブはあたしに入ってきてくれた。
ぐわっと押し広がるあたし。
サブをしっかり受け止めようとあたしは、さらに足を広げた。
痛みが走ったけれど、それはすぐに快感へと変わっていった。
痛痒いような、しびれるような、満ちてゆく感じ。
「あったけえよ。なおぼん」
「熱いよ、サブちゃんの」
「もっと奥に入れるよ」
まだ、奥まで届いていなかったのか。
ぬるりと、サブの男根が進んだ。
腰と腰がぴったり嵌り、二人は抱き合った。
「ああん。サブぅ」
「なおぉ」
口を吸いあい、背に爪を立てた。
「ふうーっ、むふぅーっ」
荒い鼻息でサブが打ち込んでいる。
まるで鍛冶屋のフイゴだ。
あたしは壊れそうになってサブの体にしがみついた。
飯を食うときのような、ねちゃねちゃした音がつながったところから聞こえる。
「なおぼん、おれ、もうだめや」
「いいよ、いいよぉ。辛抱せんで、逝って、逝ってぇ」
あたしも、夢中で叫んでいた。
がくがくと、あの瘧(おこり)のような震えがサブから伝わり、あたしも震えた。
サブの肉棒が一回り太く膨らんだかと思うと、体の奥に、熱いほとばしりを感じた。
「うーっ」
唸る、サブ。
そのまま、あたしにかぶさって動かなくなった。
あたしの中に入ったままで。
ゆっくり硬さを失うサブのオトコは、あたしが、いきむと押し出された。
外気が、あたしの広がったであろう陰門を冷ました。

もう小屋の中は漆黒に包まれている。
季節はずれのコオロギが遠くで寂しげに鳴いていた。

あたしは、その晩、初めて家に帰らなかった。