夜の七時でもまだ外は薄暮で明るかった。
湯屋の表(おもて)で恋人と待ち合わせるおれが、まさに歌の文句の通りだったのには、苦笑を隠せないでいた。
おれのほうが待たされて、その上、季節が夏だということだけが違ったけれど…

「ごめんなさぁい。遅くなっちゃった」
「夏やし、かまへんけど、また汗かいたよ」

二人は、上気した顔で銭湯を後にした。
「ビール、買ってく?」
おれは、大人の真似をして尚子に訊いた。
「飲んでんの?いつも」
「大学生やから」
「あかんのにぃ」
そういって、尚子が「にーっ」と口を横に引いて笑う。
「どれする?」
おれは自販機に硬貨を入れてやった。
「じゃ、これ」
そう言って「サッポロ」の星のマークのやつを選んだ。
おれも同じものを買った。
「つまみは、うちに帰ったらなんかあるし」
「ふ~ん。飲んべなんやね」
「ちゃうって」
ケラケラ笑いながら、二人で「玉藻荘」の道を行った。

隣の柏木の部屋はまだ暗かった。
エロ漫画家の部屋は明かりがともっていた。
おれは暗い部屋に入って蛍光灯のひもを引っ張って明かりを点ける。
そしてすぐに窓を開けた。
さぁっと生ぬるい風が部屋に入り込んできた。
尚子は、というと、
「ヒロ君、洗面具、ここに置かしといてもらっていい?」
「ええよ」
おれの洗面具の隣に、それを置いた。
洗濯物はレジ袋に詰め込んで持って帰るつもりらしい。
「ほかの女の子が来たら、なんて言い訳すんの?」
「来ぃひんて」
「ほんまに?」
「疑い深いね。なおぼんは」
おれはビールを開けた。
尚子も座ってビールのプルタブを引く。
「ほな、かんぱい」「かんぱぁい」
二人で缶を高々と上げてから、飲む。
湯上りのいっぱいはうまい。
「あ~あ、あたしらも大人やねぇ」
「オトナは、これからやらしいことをすんねん」
そういっておれが尚子に抱き着いた。
「ちょ、ちょっとぉ。こぼれるやん」
腕を高く上げて、缶ビールをこぼさないようにする。
そのまま、缶を敷居のとこに置いて、尚子が下に、おれが上になった。
「ええんか?」「いまさら」
そんなことを言ったと思う。
おれは我慢できずに、上を脱ぎ、下も脱いで性器を露わにした。
尚子も、脱いでくれる。
ショーツを脱ぐときは少しためらったが、「そこ、カーテン閉めてくれる?」と注文を付けた。
おれは、言われるままにカーテンを引き、窓は暑いので開けておいた。
「明かりは、どうすんね」
「つけたままでええよ」
ショーツから足を抜き、豊かなおっぱいを腕で隠すようにしながら横になってくれた。
小西由紀に比べて毛の密度が濃いように思えた。
おれは、尚子にかぶさって口を吸い合った。
あむ…
「ヒロ君、キス、じょうずやね」
「そうかぁ」
「初めてやないでしょ?」
「え?初めてやって」
「うそ」
「まぁええやん」
「あの子?」
小西由紀のことを言っているのだろう。
「建築科の子ぉか?ちゃうて。あの子とはなんもない」
おれは否定した。尚子はそれ以上訊いてこなかった。
隣の金沢明恵のことは、知られたくなかった。
おれは、尚子の秘所をなでまわし、指を谷筋に這わせた。
「あふ」
目をつむりながら、尚子が声を漏らす。
こいつは、経験があるんやなぁ…
おれの知らない男と、何度もセックスをしよったんやなぁ。
そんなことを思いながら、おれは尚子の乳房をもみ、乳首を吸ってみた。
「やぁん、気持ちええわぁ」
「やらしなぁ。なおぼん」
「なんやのん?観察してんの?」
「かわいいで」
「やめて」
おれは、しこった乳首を舌先でころがしながら、余裕を見せる。
尚子の手がおれの勃起を探る。
「おっきなってる…」
「あたりまえやんけ。女の裸を舐めてんねんで」
「やらしい言い方やね。ヒロ君って、根がすけべなんちゃう?」
「そうや。今わかったか?」
尚子の手の中で、ますます硬さを増して伸びあがるペニ公だった。
金沢明恵に童貞を捧げ、あれから何日か経った今、おれはまったく大丈夫だった。
焦りはある。
ほかならぬ、尚子が相手だからだ。
湯上りの尚子の体からは石鹸のいい香りがたちのぼり、暑いために、二人はもはや汗だくになっている。
シーツは湿り、ぐだぐだになっていた。
「あのさ、コンドームつけよか?」
「持ってんねんやったら、つけて。そやけどなんでそんなもん用意してるの」
おれは、明恵からもらった避妊具を脱いだズボンのポケットから出した。
「なんでって、今日、なおぼんとすると思ってたから買っといた」
「へぇ。感心やなぁ」
勃起にコンドームをかぶせた状態を尚子に披露して、
「どや?」「ばっちしやね」
と確認し合う。
「い、入れるで」
「うん」
そこは、尚子も女である。
しおらしく、股を開いた。
舐めたりすべきなのだろうが、おれはもう我慢できずに、先端を肉の間に差し込む。
やはり、処女ではないようだった。
はっきりと穴が開いていたからだ。
「あああん」
普段は出さない高い声で尚子があえぐ。
ずっぽりとおれの分身は尚子に収まっている。
「入ってるで」「うん」
潤んだ瞳で、おれを見る尚子。
「もう、彼氏とは別れろや」
「うん」
「おれのチンポのほうがええやろ?」
「うん」
おれは、少し激しくピストン運動を加えた。
そのたびに、尚子の眉間にしわが刻まれ、苦しそうな表情を浮かべる。
「あくっ、うっ」
「どや?ええか?」
「きもちいいっ」
「あいつとどっちがええ?」
「ひろ…くん」
「なおぼん」
「ひろくん」
おれたちは、つながりながら名を呼び合った。
尚子が上になって、腰を振る。
後ろ向きになろうと、おれのうえでつながったまま回る。
チンポがねじ切られるような摩擦を感じた。
おれは逝ってしまいそうだった。
尚子の激しい腰の動きは、かなり経験を積んでいるものと思えた。
妬けた…
彼氏とどんだけやったんやろ?
どんな体位でやってたんやろ?
嫉妬が渦巻く、初めての経験だった。
おれは尚子を組み敷き、屈曲位で深々と差し込んだ。
「うぎゃ」
あまりの深さに尚子のほうが恐怖の表情を浮かべる。
「深いか?」
「こわい…」
「あいつより深いか?」
「深い…」
子宮をえぐるようにおれはペニスをしゃくった。
「孕(はら)ましたろか」
なんでそんな言葉が出たんだろう?
「やめ…て」
尚子の顔に恐怖の表情が浮かぶ。
コンドームをしていることを忘れているのか?
「い、いやっ」
「どうしたんや」
「怖い、ヒロ君」
「ちゃんとコンドームしてるがな」
「そ、そんでも」
組み敷いたまま、強姦される女のようだった。
「好きやから」
そう言って、おれは尚子を見つめながら口づけをした。
「あたしも。そやから、乱暴はいや」
「わかった」
おれはバックでフィニッシュしようと思った。
「うしろ、向いてぇな」
「うん」
尻を高くあげさせて、おれは一気にはめ込んだ。
「おふぅ」
おれはかぶさるようにして後ろから乳房をつかんで、もみしだく。
そうしながら、腰は別の運動をさせる。
「いやぁ!いく、いくっ」
尚子の方から、よがりだした。
膣がびくびくと締まり、おれを絞る。
コンドームをしていることを忘れさせるような、尚子の体だった。
「なおぼん、逝っていいか」
「逝って。あたしの中で逝ってぇ」
「コンドーム取っていい?」
「あかん!それはあかん!」
「あかんか。やっぱり」
腰を振りながらおれは答えた。
狭い膣を割り裂くように肉棒を出し入れし、絶頂に向かっておれは尚子の体を感じた。
鼻を尚子の髪につっこんだり、乳房を引っ張ったり、汗を舐めた。
「きゃぁああ」
「なおこっ」
「ひろくん」
どっきん、どっきん、どっきん…
長い放出が続いた。
その間も、尚子の肉鞘はおれを絞っていた。
その力といったら…
「あかん、抜かんといて…今は、じっとしてっ」
尚子が枕につっぷしながら訴える。
おれの分身はだんだんしぼんでくる。
尚子がぺしゃっと蒲団の上につぶれ、おれは吐き出された。
精液溜めが玉のように膨らんでペニスから外れそうにぶら下がっていた。

二人で裸のまま、ぬるくなりかけのビールを飲みほした。
「すごかったぁ」
「おれも」
「あたしら、どうなんねんやろ」
「まだ学生やのにな」
「親が知ったら卒倒するわ」
「なんでぇ、なおぼんらは高校の時からやってたんやろ?」
「そんなにしてへんわ。ヒロ君が思ってるほど、あたしらは不健全やなかったよ」
おれは、カチンときた。
「そうか…」
大人げなく、そう言ってしまった。
尚子はそれに気づいたらしく、
「でもね、ヒロ君のセックスがよかった。夢中になりそうや」
そういって、寄り添ってきたのだ。
「この子、亀さんの頭のところが、すっごい引っかかって気持ちええのよ」
尚子は、細い指を伸ばしてしなびたチンポをつまんでくる。
「普通の時で、こんなにおっきいの?」
「大きいかな」
「松茸みたいやん」
おれは、中学の頃すでに「剥けて」いたので、同級生からからかわれた経験があった。
しかし、町の青年会とかでおっちゃんらの中に入ると「りっぱやね」と褒められることもあった。
仏壇屋のご主人の竹中のおっちゃんなんかが、風呂屋で「なかなかのもん、持っとんなぁ」と冷やかしてきた。
当のご主人のモノは、おれより小さくって毛に隠れていたから…
「なおぼんの、彼氏のはこんなんとちゃうんか?」
「うんとね、皮がかぶってた」
「剥けるんやろ?手で」
「立ってからは痛がって剥けへんから、立つ前に剥いてあげんねん」
「へぇ」
どうやら、勉強ばっかりして真性包茎気味らしい。
「ま、そんなやつのこと忘れて、おれと仲ようしようや」
「ふふふ」
尚子は、はっきりとした返事はしなかったが、まんざらでもなさそうだった。


よりかかる尚子の髪を撫で、汗ばんだ乳房を遠慮なくいじくった。
「もう…」
「なおこ…」
あごを上げさせて、唇を重ねた。
おれは、キスがこんなにも二人の間を詰めるものだとは思わなかった。
セックスよりも気軽で、深い。
尚子の歯をひとつひとつ、舌先で数えるように舐め、溜まってくる唾液を飲み下す。
尚子の口角からもたらりと唾液が糸を引いて落ちて行った。
「ああん」
「なお…こ」
「ひろ」
上唇の先がとがっているところを、おれの唇で挟む。
「むぅん」
「あむあむ」
そうやっていると、ふたたび勃起が襲ってきた。
へそにつくくらいに亀頭がせりあがり、つややかに膨らんでいる。
「またぁ?」
「ええやろ?」
「ゴムあるの?」「もうない」
「うそぉ。箱で買うてんのとちゃうの?」「うん」
バレたか…
「なぁ、正直に言うて。ヒロ君、女の人とつきあったことあるやろ?」
「…」
「やっぱりな。どうりで慣れてると思ったわ」
と言いながらも、尚子はおれに体を預けたままじっと、乳房を触らせている。
「あん、やばい、そこ」
おれの手指がクリトリスを押したときだった。
「年上の人でな、なりゆきでさせてもろうたんや」
「言わんでええって。男やもん、据え膳食わぬは男の恥やんか」
「なんでそんなこと…」
「お父ちゃんが、そういう人やったんよ。お母ちゃんのほかに女の人作ってたし」
「へぇ」
おれの指は、クリトリスから膣へと向かっていた。
彼女は立膝でその動きに合わせる。
「あんたの…またがっていい?」
「上になるんか?」
「うん…」
赤らめた顔で、恥ずかしそうにうなずいた。
おれは、せんべい蒲団に仰向けになった。
尚子は、汗の香りをただよわせながら、おれの胸に乳房を押し付けながら一緒にかぶさってくる。
まだ入ってはいない。
「ああ、ヒロ君の匂い…お父ちゃんのと一緒や」
「なんやそれ」
「なつかしいなぁと思って」
「一緒に住んでへんのか?」
「だからぁ、女の人と出て行ってしもたって」
「そうか」
なんか、複雑な家庭のようだった。
するりと、どこかに分身が滑り込む感じがして「ああっ」と尚子がうめいた。
腰だけを使って挿入を企てたみたいだ。
「すっごい、詰まってるって感じやわぁ」
「きついわ。なおぼんの」
「痛いくらいよ」
「さっき出してるから、長持ちすると思う」
「がんばってぇや」
そう言うと、尚子の方から腰を動かしてくる。
前後に船を漕ぐような動きだった。
そしておれの頬を尚子の掌が撫でる。
「かわいい顔してんねんね」
「なんやねんな」
「最初、実験でペアになったとき、おぼこい子やなぁと思ってん」
「おぼこい?」
「幼いっていうことよ」
「そういうなおぼんも、地味な子やなぁと思ったよ。でもお乳がけっこう立派やなって」
「どこ見とんねん。ははは」
おれの上で、尚子が、自慢の乳房を揺らして笑う。
「でも、こんなええ男って気が付かんかった」
「そうかぁ。おれそんなに顔も普通やし」
「ううん。そんなことないよ」
顔を近づけて、息がかかるように尚子がつぶやいた。
おれは、下から尚子を突き上げてやった。
「あうっ!」
「なおこっ」
尚子が狂ったように頭を振って、いやいやをした。
なおも、子宮を突き上げる。
「あひっ。やっ!きゃっ」
乳首を天井に向けて、尚子がのけぞって、後ろに倒れそうになる。
おれが慌てて手をつかんで、引き戻した。
白目を剥いた尚子が、口を半開きにして、心ここにあらずという風情だった。
「おい、なおぼん!」
「あふわふ…」
瘧(おこり)のように体を震わせ、おれと対面座位で抱き合っていた。

「あかん、ヒロ君、あたし、どうにかなってまう」
「なってまえよ」
正常位で今度は尚子を突き刺した。
「中に、ええか?」
「あかん。それは堪忍(かんにん)」
「おれの子を産んでぇや」
「あかん。あたしら学生や」
「結婚しようや」
「そんなこと、簡単に言うたらあかんて」
おれたちは、蒲団をくしゃくしゃにして転がりまわった。
つながったまま、一時間くらい、そうやっていただろうか?
「まだ、逝かへんの?」
「逝ったら、終わるもんな」
「もう、逝って。あそこがしびれて来た」
「ほんなら、中に逝くわ」
「もう、言うたらきかん人やなぁ。ヒロ君は…」
そう言って、尚子が汗まみれのおれの額に張り付いた髪を指先で払いながら言った。
「なおこ」
「責任、とってや」
「うん」
承諾を得て、おれはフィニッシュに向かった。
尚子を裏返し、バックで突きこむ。
尚子の手がシーツをつかんで、その指の血の気が失せるほど力が入っている。
尻を高々と上げ、頭は敷布団に押し付けまま、尚子はおれの突きに耐えている。
「きゃわぁ!」
「お~し、おお、おおおお」
泡を噛んだ結合部を、尻肉を分けて眺めながらおれは感極まった。
もっとも深いところに「種付けプレス」を実行したのである。
二人とも折り重なって、蒲団の上に突っ伏した。
抜くと、ごぼりと白濁した泡が尚子の膣から噴き出した。
「ああぁ」
「やってもた」
急激におれは後悔の念にさいなまれた。
妊娠させたら、おれはこいつと一緒になるんや…
「なおぼん、ごめんな」
「なんで、あやまるのよ。そんなん言われたら切ないやん」
「責任はとる…」
「うれしいねん。あたし」
意外な答えが返ってきた。
「ヒロ君、好きや」
振り向いて、尚子のほうから唇を求めて来た。

風呂に入ったのに、また風呂に行かねばならないくらい、二人は汗みずくだった。
もう一度「駒の湯」に向かったのである。

もう夜空には月がこうこうと輝いていた。

(おしまい)