竹里館の前に車を停め、辰吉が手を取って瀧子を降ろす。

欧風とも、支那風ともつかない瀟洒なそのたたずまい。

玄関の玻璃(はり=ガラス)の嵌った大きな扉は、まるで巨人の住まいのそれだった。
「お嬢様、さ、こちらへ」
辰吉が、その扉を難なく押し開き、瀧子を招じ入れた。

瀧子は、しかし、ここへ来るのは初めてではない。
風雨とは無関係のその空間に足を踏み入れ、ビロウド貼りの腰掛けなどを横目に見ながら奥へ進む。
草履の下には毛足の長いペルシア絨毯と感じ取れた。
暗いようで、目が慣れると文字を読むくらいなら十分な燭光が灯(とも)っていた。

「辰吉、今日はどのお部屋なの?」
「へい、胡蝶の間で。その突き当りでやんす」
下男の指差す方向には、緻密な唐草模様のレリーフがあるドアがあった。

竹里館は政府要人や異国の大使なども使う、秘密の「倶楽部」が所有するものだった。
ポーカーやブリッジ、ルーレットなどを楽しんだり、めずらしいお酒を頂いたり、めくるめく不可思議をここでは体験できるということだった。

この「倶楽部」は名高い世界的秘密結社「フリーメーソン」が所有するものであると、ものの本にはある。
それはそれとして、瀧子と辰吉は「胡蝶の間」と称している奥の間に二人して入り、辰吉が鍵をかけた。
このアールデコ調の小部屋は、和室で言えば八畳そこそこの広さであり、西洋の寝台が中央より少し窓辺側にしつらえてあった。
もうそれだけで、部屋はほぼいっぱいであった。
「お嬢さん・・・」
すこし辰吉はくだけた言葉遣いになった。ここは二人だけなのである。
「たつきち・・・」
熱い体を下男にからませる瀧子。
窓の外には、霖雨の山間が広がり、そこを人は武蔵野と呼んだ。
車夫の前掛け姿の辰吉と、新進の女主人との逢引の図である。
屈強な体格の辰吉と、それに伸び上がって口づけを求める娘は、微笑ましいものに映った。
まるでクリムトの「接吻」のように・・・

ベッドと称する寝台に辰吉はやさしく瀧子を押し倒し、そして激しく口を吸った。
あむ・・・
袴の中に男の手が忍び込み、着物の袷、襦袢の下へと突き進む。
「あ、だめ・・・」
強く男の手をつかんで、瀧子が拒む。
「どうしました?瀧子さま」
「あの、まだ、終わってないの」
「え?」
要領を得ない表情の辰吉である。
「月のものが、まだ・・・」
辰吉は「ああ」とうなずいて、
「かまやしません。そのほうが、ご婦人は気持ちがいいらしいですぜ。それに孕(はら)む心配がねぇ」
学(がく)はないが、そういう知識には長けている辰吉である。
「でも・・・」
「待ってくだせぇ」
そう言って、辰吉は備え付けの手洗いに消えた。
しばらくして、鼻紙やらサラシのような布を持って出てきた。
「これでね、下に敷いておけばわけないですから。終わったらこれで拭いてさしあげます」
年上の余裕というのか、そつなくこういうことができる辰吉は、瀧子にとって兄のように頼もしく映った。

愛撫が再開された。
帯は解かれ、着物は汚さないように丁寧に脱がされていた。
ふんどし一丁の辰吉も襦袢姿の瀧子に上から覆いかぶさる。
四十前のその締まった体は、西洋の彫刻のように見ごたえがあった。
男の汗の香りに瀧子は朦朧としてしまっていた。
女だけで育った瀧子にとって、男は辰吉以外になかった。
もう五年以上もこういう関係を続けている彼らにとって、今の時間は至福の極みと言ってよかった。
小ぶりの乳房があらわになり、辰吉の長い舌が這う。
「ああん、そこ、いい・・・」
「お嬢さん、いい匂いがしまずぜ」
辰吉のふんどし越しの硬い物が瀧子の腿やわき腹をつつく。
「ね、お嬢さん、ちょいと、前みたいにしゃぶってやってくだせぇ」
最近、教わったのだが、口で男根をねぶるというものだった。
「いいわよ、こっちにいらっしゃいな」
辰吉は瀧子の顔をまたぐようにして、膨らんだ部分を差し出した。
さらしの脇から手を入れて、その窮屈に硬くなった一物を引き出そうとする瀧子。
あまりの硬さでなかなか出てこない。
「待ってくだせぇ」
ハラりとふんどしが取られ、大きく伸び上がった肉の棒が瀧子のあごに当るくらい近くに来た。
「どうです?でかいでしょう。でもお嬢さんのあそこにはこれがずっぽり入るんですぜ。もう小ちゃい頃からねぇ」
そう、いやらしく笑って、咥えろとばかりに突き出される。
瀧子はそうやって言葉でいじめられることに快感を覚えていた。
汚らしい下男に、陵辱される高嶺の花・・・
説明をつけるとしたら、そういう題目になるだろうか?
文学に造詣の深い瀧子は、そんな自分を物語のヒロインとして妄想することがあった。
今、まさに文学の中に彼女はいたのだった。
「あふ」
上品につぼまった唇を凶器のような亀頭が割る。
その直径に沿うように、護謨(ゴム)かなんかのように広がる口唇。
「ああ、あったけぇ」
辰吉も目を皿のようにしてその一部始終を見つめている。
辰吉の半分も口には入らなかった。
舌先で鈴口を押し、広げてみる。
そして、裏すじを舐め取る。
そうするように辰吉から教わったのだった。
ほほの裏が硬い男根で押され、飴を頬張ったようにほほが膨らむ。
歯を当てぬように、気を使うから、あごがだるく、こめかみも音がしだした。
「お嬢さん、そろそろ・・」
そう言って、口から一物を抜き去った。

そのまま下のほうに辰吉の顔が移動していった。
しばらく、恥ずかしい場所をいじられている瀧子だった。
お実(さね)と世間で呼ばれている部分が、ことのほか敏感になっている。
初潮を迎えた頃に、もう辰吉に教え込まれていた場所だった。

「ああ、こりゃひでえや」
陰部に指を突き刺し、経血を確かめているだろう辰吉の声。
「でも、たまんねえな、この匂い。おれ、我慢ならねぇや。いいですかい?もう入れて」
「いいわよ。痛くしないで・・・」
「わかってますよ。ゆっくり楽しみましょうや」
そう言いながら、瀧子の足を左右に開いて、その部分に辰吉は雁首を沿わせた。
淫水と経血でなめらかに滑り、難なく巨大な辰吉を収め込むことができるようだった。
ずぶ・・・
長い挿入感があり、奥に行き着くまで時間を感じた瀧子である。
どこまで、深く入れられるのだろう?
「あ、あああ・・・」
満たされる感覚が、心地よかった。
月経のためか内部が弛緩していて、瀧子にとっては苦痛の少ないものだった。
ただ、おなかの痛みは依然、残っていたけれど。
「あったけぇなぁ。お嬢さんの腹ん中・・・」
そう、そみじみと言いながら、ゆっくり腰を入れてくる。
瀧子も快感に身をゆだねて、男に任せた。
もう、幾度も貫かれているのである。
乳首がしこって、痛痒くなる。
そこを辰吉のざらついた舌が絶妙に攻め立てる。
「あっ、くぅ・・・」
「し、締まりますぜ・・・」
辰吉をつかんでいる、肉の鞘を自覚した瀧子であった。

楢本の息子に「味見」された後、「あんた、おぼこじゃないね」と冷たい目で言われたことを思い出した。
なんでわかったのだろう・・・
自分ではそんなことバレるはずがないと思っていたのに。

処女膜なんていう知識のない時代である、女遊びを人並みにしていた楢本喜十郎はたぶん、彼女の処女にはない溢れんばかりの蜜の量や、異常に発達した実(さね)、ぽっかりと口をあけてひくひくと男を誘う淫口などから総合的に判断したのだろう。

ただ、楢本喜十郎はそのことを口外したり、京極家を悪し様に罵ったりということはまったくしなかった。
まったく頓着していない様子で去っていったのである。
瀧子の年齢と美貌で「未通女」ということがありえない時代だったし、喜十郎にしたって「未通女」の扱いにくさは十分に知っており、願い下げだったのかもしれない。

「ああっ、もうだめ。だめだったら・・・」
「お嬢さん、お嬢さん、やりますぜ、中に、たっぷり」
「ちょうだい。たくさんちょうだいーっ」
妊娠の不安がない男女は、こうも乱れるものなのか。
激しく、男の腰が振られ、女の陰部から泡立つ血糊が飛び散り、凄惨な雰囲気だったが、二人は登りつめようとしていた。
「うがぁっ」辰吉が吠えて、痙攣したように震えて硬直した。
のけぞったのは瀧子も同じだった。
重い辰吉を持ち上げるように下から瀧子が反り返る。
結合した一点に集中して押し合い、平衡が保たれていた。
そして、がしゃりと建物が壊れるように、その造形は崩れ落ちた。

外の雨は一段と激しさを増しており、もはや武蔵野は煙りに隠れてしまっていた。