源氏物語に「末摘花」という巻があります。
「すえつむはな」と読みます。
「なつかしき色ともなしに何にこのすえつむ花を袖にふれけむ」(光源氏)
の御歌が由来のお話です。

源氏物語五十四帖の長い長いお話の中でも、最初のほうの巻ですから、お読みになった方も多いのではないでしょうか。

象(普賢菩薩の乗り物と表現)のように長く、先が赤い鼻をした、たいそう不美人な女性「末摘花」に美男の光源氏がお近づきになる話です。

彼女は常陸宮(ひたちのみや)様の姫君で、皇族でしたが不運が重なって零落していたのです。
「末摘花」は知り合ってから源氏が彼女につけたあだ名です。

光源氏は女ならばなんでもいいのか?
実はそうではなく、平安のころは通婚で、男のほうから女の家に訪うのです。

で、うわさだけで、どんな美女が住んでいるのかと想像をたくましくして、一夜の契りを目標にライバルの頭中将(とうのちゅうじょう)と源氏は彼女を争います。
とほうもなく馬鹿な男どもです。

源氏は、その争いに勝って、やっと常陸宮の姫と雪の降る夜に契るのですが、朝になって明るくなってから彼女の顔をみてびっくりします。
「こいつと昨夜、やっちまったのかよ。女か?この長い鼻」
ほかに、胴が長いとか、ガリガリで顔色が悪いだの、さんざんこきおろしているのも、めずらしいです。
つまり源氏は、それほど後悔の念でいっぱいでした。
身勝手なもんですね。
男って。

この姫、可愛くない上に、時代錯誤で古風な立ち居振る舞い、言葉遣いをするので源氏も辟易します。
平安時代で「古風な」と言われてもね、どんなんだったんだ?

あたしが、以前にブログで落語「延陽伯(えんようはく)」を紹介しましたね。
あの元ネタみたいなもんでしょうか。
ただ、「延陽伯」は美人でした。
「花子とアン」の白蓮みたいでもありますが、やはり白蓮は美人でしたしね。
※柳原白蓮は大正天皇のおいとこ様で、石炭王の伊藤伝右衛門に嫁いで、反りが合わず、社会主義活動家の男と出奔して「白蓮事件」を起こしました。

「末摘花」なんてあだ名を付けて、源氏は、しかし、彼女を大事にします。
彼女の純真さ、真心の美しさは本物で、それは光源氏にも伝わり、高貴な生まれでもある姫を二条東院に引き取らせ妻として最後まで不自由なく暮らせるように面倒を見ます。

「末摘花」の花は、当時の高級色素「紅花」を意味し、彼女の鼻の先が赤いことと掛けているんですね。
だから「末摘花」は零落していても高貴な女なんです。

こういうお話をいずれ書きたいともおもうんですがね。
源氏物語は、ほんとうにエロ小説を書くには最高のテキストですよ。