まず、結果からご覧いただこう。
今日は、雨も止み、雲が多いが晴れである。梅雨前線は東に去った。
昨晩試作した「ストームグラス」の様子がこれだ。

ストームグラス晴れの日
見事な、樟脳の葉脈状(針状)結晶が析出している。
細かい、正八面体結晶も見られるが、これは「カリミョウバン」のものであろうか?
とても美しいものだ。我ながら感動した。

昨晩の作業をふり返ってみよう。
材料や器具はざっとこのようなものだ。

ストームグラス材料
薬剤はドラッグストアやアマゾンで入手可能なものばかりだ。
Wikipediaなどでは硝酸カリウムが処方に入れてあるが、この薬品だけは個人で取り寄せることができない。
ゆえに、私は似たような溶解度曲線から考えて、代替品として「カリミョウバン(明礬)」を使うことにした。
ドラッグストアーや、漬物用品を扱っている店で手に入るはずだ。
学生実験でも、大きな結晶を作る薬品としてよく使われる。

まず、水溶液成分を作る。
塩化アンモニウムとカリミョウバンをそれぞれ3gずつを別々に量り取り、水30mlに分散させる。常温では溶けないので、アルコールランプを使い、温度計で温度を見ながら沸騰させない程度に温めながら、ある程度均一な懸濁液にする(飽和になっているので完全には溶けない)。
※薬品は、薬さじで扱い、かならず薬包紙(パラフィン紙)に取る事。温めるときは火災や火傷に注意して、軍手などを着用してすること。
※使用した水は市販のミネラルウォーターである。水道水でもできるが、鉄分を含むことがあるので、結晶が茶色く着色することがあり、品質のしっかりしたミネラルウォーターを使った。

ストームグラス塩安

ストームグラス無機塩溶解
次に、樟脳(天然もの)を薬包紙(パラフィン紙)に14g取る。
錠剤になっているので、調剤の微調整にはニッパーで錠剤を砕いて加える。

ストームグラス樟脳
樟脳の溶剤として、エチルアルコール(無水)の40gを200mlビーカーに量り取るが、こぼさないように、メスシリンダーにエチルアルコールをあらかじめ取っておいて駒込ピペットに沿わしてビーカーに注ぎ、微調整はその駒込ピペットでする。
ストームグラスビーカーバランス
なお、ビーカーは空の状態で、天秤をバランスさせるために(零点調整、風袋差し引き)、ビー玉と洗濯用マグネシウムボールを使った(上の写真)。
※薬剤を取る容器を「風袋(ふうたい)」と呼び、この分の重さを差し引いておかねばならない。あえてデジタル秤(はかり)を使わなかったのは、こういう手順を知っておいてほしいからである。

このエチルアルコールのビーカーに樟脳を入れて、加熱せずに常温で完全に溶かす。
※エチルアルコールは引火性があるので、アルコールランプなどの裸火で加熱してはいけない。加熱するなら湯煎である。樟脳は常温でエチルアルコールに溶けるので加熱する必要はない。

こうして、二種類の溶液ができた。
ストームグラス二液
左が塩化アンモニウムとカリミョウバンの混合懸濁液(飽和なので溶け残りがある)で、右が樟脳のエチルアルコール溶液である。
この二液を合わせ、二つのガラス瓶(内蓋、外蓋付き)に分けて入れた。
これは、各自、自由に透明な入れ物を用いてもらって構わない。
ストームグラス瓶に小分け
瓶の材質はプラスチックよりガラスがお勧めである。エチルアルコールを含むのでプラスチックはものによって曇ったり、ひびが入ったりするからだ。
また、密閉できるものがよい。
これもエチルアルコールが含まれているので、揮発してしまわないようにするためだ。
できた、ガラス瓶をしばらく冷蔵庫に入れてみた。
ストームグラス作成後冷蔵庫
一時間ほどで、細かい星のような結晶が浮遊し始める。
外に出して、外気に慣らし、翌朝(つまり今朝)見ると、最初にお見せした通りに結晶が成長していたのであった。

硝酸カリウムをカリミョウバンに変えても、ちゃんと結晶ができた。
あとはこの結晶の状態と実際の天気との相関性を調べて、気象予報に役立てるだけである。

帆船時代に船乗りが天気を予測するのに、この「ストームグラス」を使った言われている。
「ストーム」すなわち嵐を予測することは、船乗りにとって命にかかわることであり、それなりの天候との相関があったのだろう。
彼らは、嵐が近づくと瓶の中に大きな葉状結晶が満ちるというのだ。本当だろうか?
言い伝えでしか残っておらず、詳しいことはわからないのだ。
疑似科学かもしれない。

化学者は、どこかで黒魔術を信じているものだ。

追記:6月10日から12日は梅雨の中休みで、連日真夏日を記録した京都府宇治市では、ストームグラスの結晶が溶解し始め、細かい粉状になって沈殿してしまった。
気温30度近くのストームグラス
こんな状態であった、また寒くなれば、結晶が大きく育って、美しい姿を見せてくれるのだろうか?