「トカレフTT-33かぁ」
コルトガバメントM1911のコピー・・・
これは中国製だけれど。

あたしは、手に余る重い拳銃を抽斗(ひきだし)に隠していた。
弾は込めていない。

実包が64発ある。
すべてトカレフ弾だ。
それに空のマガジンが3本。

戦争でもおっぱじめるってか?

何人、道連れにしてやろうか。

もう、ここは時間の問題だ。

無線機が静かになった。
遠くで、アメパトサイレンが聞こえる。

同軸ケーブルを外し、無線機を抱えた。
外に停めてあるX-トレイルに積み込むんだ。
「中村君、行くよ」
「うん」
彼は本物のM1911をホルスターに下げている。
あたしも抽斗の拳銃と弾をトートバッグに乱暴に放り込んだ。

アジトの外に出た。
今にも泣きだしそうな空模様。
シマ板の階段を二人で足早に降りる。
カン、カン、カンと乾いた音がやけに響く。

「楽しかったね」
「うん、いろいろありがとう」
「あんた、セックスが上手になったね。童貞だったのに」
「へへっ。なおぼんのおかげさ」
「政府転覆は死刑だよ。覚悟はいいの?」
「いい。もうなにも守るものなんかない」
「本隊に合流できるかな」
「顔、知らないんだよね」
「声しか・・・」
「このパスワードがあればいいんだよね」と彼は、首からぶら下げているメンバーズカードを指した。
「そのはずよ」
あたしはICOMの無線機を車に取り付けながら、そんなことを話していた。

「さあ、行こう」
バンとドアを閉めて、座席に収まる二人。

さようなら。
あたし。