新型コロナウィルスの変異株が大阪を中心に、首都圏でもまん延していることが明らかになっている。
大阪のそれは、イギリス型だというが、イギリスから入ってきたというより、日本国内で同型に変異したのではないかと、私は思うのだ。

化学者からの立場から申し上げると、ウィルスの変異現象は、同時多発的に起こるものだと思う。
彼らウィルスも、古いバージョンでは生き残れないから、日に日に、アップグレードしていくものだからだ。
そしてその生き残りの遺伝子配列は似通ってくるのである。
なぜならヒトの免疫細胞が、あまり変わらないからである。

ウィルスはヒトの細胞に入り込んで、ヒトの細胞の道具を拝借して自らの遺伝子情報(RNA)を転写、増殖させて増えるのだった。
変異の程度は、転写の頻度に比例するから、その天文学的数字による転写頻度で新しい型をアップデートしてくるわけだ。

型は転写ミスで生まれ、ほとんどが無意味か、ウィルスにとって不利な変異もあるはずなのだが、良いもの、有益なものは残っていくから、結果的に強いウィルスが最新型として残るのである。
ダーウィンやウォレスが唱えた、自然淘汰説を地で行くのがウィルスの世界なのだ。

変異のメカニズムは化学反応である。
RNAというリボ核酸を遺伝子情報にしているウィルスは、われわれ、DNA(デオキシリボ核酸)を遺伝子情報にしている生物とそんなに変わらないのである。
転写ミスは我々の細胞だって、日々起こしている。
ウィルスの場合は、その転写ミスがそのまま次世代の再生産になっているのである。
だから、頻度が天文学的数字になり、自然淘汰の速度も速いのである。

遺伝子情報は核酸の塩基配列で記録されるけれども、その組み合わせは四つの塩基だけで成り立っており、単純である。
コロナウィルスはメッセンジャー(伝令)RNAというリボ核酸で、糖鎖がリボースという糖であり、DNAのそれがデオキシリボースであることからすると、糖とリン酸が隣接する水酸基の酸素上の孤立電子対がアルカリ性環境では求核攻撃によってリン酸を脱離しやすい、つまり分解しやすい傾向にある。

mRNAは転写作業が終わればすぐに分解される運命にあるのだった。

またDNAの塩基配列に使われるチミンがRNAではウラシルになっていることも、RNAの特徴である。
RNAでもDNAでも脱アミノ化でシトシンがウラシルに変化することがあるので、RNAではそのウラシルが脱アミノ化で生まれたものか、もとからのものか区別しないと鎖を維持できない(遺伝子情報を維持できない)ので、一本鎖(一重らせん)になっているという事情もある。
それはチミンがウラシルになることはないからである。
化学的にいうと、チミンはウラシルの5位の水素原子がメチル基に置換されているから、簡単にチミンがウラシルになることはない。

このように、変異の仕方には化学的なパタンがあって、それらが何度も転写されるうちに、ヒト免疫に勝とうとする「スパイクの変異」を選抜することになる。

結果的に、武漢型から、イギリス型や南アフリカ型、インド型、ブラジル型というパタンを新型コロナウィルスは得たのである。
ワクチンを使うと、さらに彼らはそれに打ち勝とうと、変異を強めるかもしれない。

われわれは、変異ウィルスを地域別に分類しているが、コロナウィルスはそんなことはお構いなしに、ヒトに感染して、転写を重ね、変化したものが同時多発的に増殖しているに過ぎないのである。

このままいくと新型コロナウィルスの勝利、ヒトの敗北という図式が現実のものになるだろう。

だから、私は、外に出ない。