俺はクーラーボックスを肩にかけ、竿袋を手に玄関に降りた。
「ほな、行って来るわ」
妻の則子(のりこ)が、娘の亜美を抱いて、スリッパをぺたぺたと鳴らしながら見送りに来る。
「おさかな、当てにしてええの?晩御飯」
「そやなぁ…あんまり当てにせんといて」
「パパは、晩のオカズを海で取ってきてくれまちゅよ。いってらっさぁい」
則子が亜美の手を取って送り出してくれた。
「ほならな、亜美、行って来るわな」
他人が見たら何とも微笑ましい光景だろう。

おれは家のガレージに停めてある、ニッサン「エクストレイル」に道具を積み込み、運転席に滑り込む。
ポーチまで出てきている、亜美を抱いた則子の姿がミラー越しに見えた。
「プン」とクラクションを短く鳴らし合図して、俺は車を出した。
則子には、日本海の小浜あたりに行くと言ったが、この時間では、魚の湧く「まずめ」には、まったく間に合わない。
俺は反対方向の大阪に向けてハンドルを握っていた…

最初から釣りになど行く気はないのである。
セフレの緒方由紀子を途中で拾って、ホテルにしけこむ予定だったのだ。
由紀子とは会社の部下であり、この不倫は、則子が亜美を妊娠したころから続いていた。
ずっと「釣りに行く」と言って則子をだまし通してきたのである。
則子は、亜美を出産したあと、夫の俺のことなど忘れているのではないかと思うほど娘にべったりだった。
そうやって、一年が過ぎたころ、俺と則子の間には性交渉がまったくなくなってしまった。
終末の夜などに則子を誘っても、亜美を理由に拒否されるし、俺も、産後のたるんだ妻の体に欲望もわかなくなってしまった。

そんな折も折、由紀子も失恋してぼんやりしていたのである。
由紀子は、特に上司の俺に好意を抱いていたわけでもなかったようだ。
則子が実家に娘を連れて帰っていたときを狙って、俺がたわむれに由紀子を食事に誘ったことがあった。
そのころの由紀子は仕事でちょっとしたポカをやらかし、辞めたいとまで俺にこぼしたのだった。

上司として、似たようなことをほかの女子社員たちともしたことがあって、軽く、慰めと普段のねぎらいのつもりで誘ったのだが、由紀子に食事のあと、ホテルに誘うと簡単に落ちたのである。
ほんの遊びのつもりが、とうとう深情けになって、俺たちは逢引するようになった。
不倫がバレないように、細心の注意を払って、今日まで愛を育んできたのである。
由紀子は、ただ、抱いてほしいという割り切った望みであって、俺に離婚を迫ったりはしなかった。

由紀子は、性欲の強い女だった。
俺も、根が助平なため、いろんなプレイに励んだ。
玩具を使うことなど、とうに飽きてしまって、ただひたすら、長い濃密なセックスを追求することでウマが合ったのである。
今の妻にはそんな気も起らないし、たとえそんなことを要求しようものなら、変態扱いされるのがおちだった。
由紀子は騎乗位を好み、長持ちする俺を、別れた彼氏と比べて「譲治の、ほんとすごい」とほめてくれる。
俺は運転しながら、思い出して、にやけていたに違いない。

待ち合わせの八幡市のコンビニに着くと、キャップにサングラスの女が店から出てきた。
今年で二十八になると言っていたが、二十二、三でも通りそうな幼顔(おさながお)だった。
当然のように俺の車のドアを開けて、助手席に滑り込んだ。
「待ったか?」「ううん、今来たとこ」
最初は、言葉少なだった。
俺は国道に車を流入させ、枚方(ひらかた)の「行きつけ」ホテルに向かう。

ホテルの洗面所の大鏡の前で重なり合って立ち、裸でむつみ合うのがお決まりコースだった。
すらりとした由紀子は、高校時代に水泳選手だったそうで、今もそのスタイルを保っている。
「今も泳いでんの?」
「うん…スイミング、行ってるよ」
そんな会話を交わしながら、鏡に映る自分たちの姿を意識して口を吸い合う。
ああんむ…あむ…
「譲(じょう)も、肥えてへんやん」
「俺は、食っても太らないんや」
「奥さんは」
「あいつは亜美を産んでからは、毬みたいに肥えてもて」
「きゃは…そんなこと言うてから。ええのぉ?」
「ええの、ええの。あいつは女やない、母親なんや」
「わかる気がする。そやからあたし、譲のオンナになったげる」
そんなことを言いながら、由紀子も自分の気持ちを高めているのだろう。
間接照明を受けて、あずき色のタイルがシックな浴室だった。
互いに向かい合ってシャワーを掛け合う。
「ちょっと熱(あつ)ない?」
「体が冷えてんのやろ」
「ううん、そんなとこ触って…」
「よう、洗うとかな」
くちゅくちゅと、谷間を手の甲で滑らせる。ざらざらとしたヘアを感じながら、シャワーを当ててやる。
「んふ…ん」
背中を向かせ、流してやった。
高まりを尻の谷間に差し込んで…
「ちょっとぉ、硬いの当たってるやん」
「もう、ビンビンや。入れさせてぇな」
「まだ、あ・か・ん」
振り向いてビーバーのような前歯を見せて笑う由紀子が愛おしかった。
「こいつと、新しい生活ができたらな…」そんな思いが起こった、
妻の則子など、そのへんのおばさんと変わらないのだ。
まだ、三十そこそこの年齢であの老けようは、いたたまれないと、身勝手な考えまでも湧いてくる。
妻を老けさせたのは俺のせいでもあるのに。

また向かい合わせになると、互いに口を重ねる。
少し厚めの唇が俺に吸い付く。
由紀子の手が、俺の硬直に触り、輪郭を確かめるように握って来る。
「ああ」思わず、俺は声を出してしまう。
「こぉんなに、おっきくなってるよ」
「そうや…ゆきちゃん」
「じょう…」
ふたたび、熱いキスを交わした。
シャワーヘッドは床に落ちて、あらぬ方向に湯を噴き上げていた。
痛みを感じるほど、俺は高まっていた。
いつになく、角度と膨張を見せている。普段とは一回りくらい大きく見えるくらいだ。
由紀子が、執拗に棒をさすり、握って、こねまわす。
「舐めてくれよ」俺は、シャワーヘッドを拾い上げて湯を止めた。
「ふふふ、お風呂で舐めたげる」
二人は、浴槽に浸った。
湯があふれた。
腰を浮かすと、由紀子が可愛らしい口に導かれる。
ぱく…先が舌に乗せられ口内に消えた。
目を細めながら、俺を見つめ、舐めている姿を見せようとしているのだった。
由紀子の舌が別の生き物のように、俺をつつき、絡めとる。
髪を後ろに束ねているので、額が光っている。
小さめの顔も、髪をアップにしているので映えた。
可愛らしい頬が、俺のもので膨らんでいる。
じゅぼ、ちゅぼ…
「そんなにされたら、出てまうがな」
「うふぅ…あかんよ。まだ」
口を離して、由美子が言う。
「あたしもお乳、舐めてぇ」
「ああ、こっちおいで」
俺は由紀子を手繰り寄せて、抱きかかえるようにして、浮かせた乳房を食(は)んだ。
しっかりと主張している乳房は、水着でも映えるだろう。
乳首は小さくしこって、乳輪は淡いピンクだった。
子供を産んでいない女の乳首は、清楚そのものだった。
舌先を尖らせて、その突起をいたぶる。
「ひっ、くっ」喉を鳴らす由紀子。
乳輪ごと吸い上げると、由紀子がのけぞり、湯が波立つ。
「おいおい、よがってるやないか」
「譲(じょう)が、じょうずなん」「シャレかい」「ふふふ」

いい加減、のぼせてきたので、風呂から出ることにした。

ひんやりと冷房の効いたベッドルームは、夜空を思わせる壁紙だった。
「明かり、消すか?」「ううん、暗いのいや」
関係が始まった頃は、明かりを消したがったのに、今はそうでもないらしい。
俺は素っ裸で大の字にベッドに倒れ込んだ。ペニスが天井を突いている。
「かぶさったろか」と、由紀子。
「どうぞ」俺が答える。
由紀子がバスローブを取り去って、袈裟懸けに肌を重ねて来た。
そしてペニスを握りさする。
「こんなにして…早よ、入りたいって」「ふん」
彼女の指先で、先走りの液体が亀頭に塗り広げられる。
「バナナさん」そう言うと、由紀子が再び口に含んだ。
唾でズルズルに潤わせると、自らまたいで鈴口を自分の秘穴に沿わせる。
そのまま入れるのかと思いきや、自身の分泌液を利用して何度も外側を滑らせている。
その瞳は、俺を見ているというより、もっと遠くに焦点が結ばれているような恍惚としたものだった。
「あはぁ…ううん…むうん、はっ…」
眉間にしわを刻み、由紀子は己の世界に没入しているようだった。
「おいおい、入れへんのかよ」「待って…」
ぴたりと動きを止めると、彼女は俺を見つめながら腰を落としていく。
同時に、めくれるような彼女の肉襞(ひだ)を亀頭に感じ、熱い火口に突進させられた。
「うっふう」俺の方から声が出てしまう。抜き差しならない関係。
由紀子はそのまま収めてしまうしまうと、俺の方にかぶさってきて唇を求めた。
激しい、接吻が繰り広げられる。まるで俺を食らうかのようだ。
「はんむ…あむ、あむ…」
唾液まみれにされた俺の口元を、今度は舌で舐めとってくれる。
「んふふぅ」由美子の笑顔が目の前にあり、近すぎてピントが合わない。
「なんやな」
「いい男」
「あほか」
由美子はそれに答えず、腰を胸を合わせたまま上下に振り出す。
その運動は、女性にすればかなり「しんどい」ものだと推察されるが、水泳で鍛えている由美子には、容易(たやす)いことなのだろう。
ぎゅっぎゅっと、きつい筒が押し広がるように俺をしごくのである。
この「絞り」の効いたピストンは俺が手でする以上に、すばらしい感覚を与えてくれた。
「ああ、ええぞ、それ」
「ふふ、そう?あ…はん、あっ」
由美子自身も快よく感じているらしい。両手をつき、顎を上げて、腰を規則的に振り下ろすのだ。
俺はその汗でしっとりと濡れた喉をながめ、揺れる乳房をしたからしごき上げる。
女筒がさらに引き絞る。
なんという力だ。いつも思うが、こんな女がいるということに、俺は感動を禁じえないのだ。
妻の則子など、逝きついたときにか弱く「ひくひく」と肉筒が痙攣するだけである。
それも、あるかないかの微(かす)かなものだった。
由美子を知る前だったから、女のエクスタシーなどその程度のものとしか気づかなかっただろう。
「ジョウのすっごく硬い」
「そらそうや。こんなええ女に硬くならへんやつがいたら、そいつは腎虚や」
「ジンキョ?何それ」
「不能や。フノウ」
「むつかしこと知ってんねんね。そういうとこ好きよ」
そういうと、由美子は俺の両腕を引き寄せて起こし、対面でしたいと要求した。
俺たちは結合を支点に起き上がり、再び口を吸い合う。
子宮を突き上げているのが俺にも感じられた。
由美子の子宮は硬い。しっかりと「そこに」あった。
膣の長さが短いのかもしれない。俺のが長いのか?
則子は俺が初めての男だったらしく、付き合い始めてしばらくしてからホテルに誘い、事に及んだとき、俺の勃起を見て怯え、あまり良くなかったとこぼした。
以来、彼女とは、結婚するまでお互いセックスには触れないでいた。
初夜のとき、「男の人のモノがこんなに大きいなんて」と確かに言ったが、俺自身、自分のモノをことさら大きいとは思ったこともないし、高校時代、サッカーをやっていたが仲間内でも俺より大きなモノをぶら下げているヤツはざらにいたくらいだ。
「由美子は、俺の大きいと思うか?」
「うん、大きい方じゃないの」
「前の彼氏以外に見たことあんのかよ」
「なぁに?誘導尋問?」
そういうと由美子は俺をつぶらな瞳で見つめる。
「あたしかって、オトコの一人や二人はいたわよ」
「ふぅん」俺は、乳首を吸いながら答える。
由美子は俺の頭を抱えるようにして、短い俺の髪を逆なでする。
「あっ…ジョウのペニちゃんは、頭がおっきくて、いいところに当たるのぉ」
由美子の腰がぐりぐりと押し付けられ、俺の先端も硬いものに押し付けられる。
「おまえの、当たってるで」「そうよぉ、当たってるのぉ!」
ますます、強く、腰を押し付けてくるので、俺は後ろに押し倒し、屈曲位に移った。
由美子の両脚が俺の腰を挟み、密着を高めようとしている。
「おい、すげぇな。今日は」
「あたし、なんだか、すっごくジョウが欲しいの」ときた。
つながったまま、動かず見つめ合う。
「そうか…欲しいのか…そんならやってやるよ。ぶちまけてやるよ」「ひっ…」
潤んだ瞳が乞うている。「孕みたい」と。
もう、由美子が止めろと言っても聞くもんか。
俺は、真上から何度も振り下ろし、突き刺した。
ぶじゅ…ぶじゅ…
粘液質の鈍い音を立てながら結合部は、痛々しいまでに広がり、潤滑液をあふれさせている。
速いピストンよりも、ゆっくりと押し付けるような送り方でやるほうが女も逝きやすいのだそうだ。

由美子が俺にしがみつく。
背中に爪が突き刺さる。
それが刺激になって、俺の神経が昂(たかぶ)るのだった。
このままこいつの中に出せば…修羅場が目に見えている。しかし抗えなかった。
由美子がほしいと言っているではないか。
則子と亜美の顔が一瞬浮かんだ…
由美子の汗、体臭がないまぜになって、俺は正常な考えを持ち得なかった。
「ジョウ…ジョウ」その、かすれた声に「由美子、好きやぁ」
俺は、感極まって、ほとばしらせてしまった。
どく、どく、どく…
俺は、狭い由美子の「部屋」にたっぷりと満たし、征服した。
「こいつは、おれのもんや…」
俺は抜かなかった。
由美子も抜かせなかった。
「出したったでぇ」「うん…」
由美子は泣いていた。

俺は、ゆっくりと腰を引き、道具を抜いた。
溢れないように、由美子の尻の下に枕を入れて、膣口を上に向けさせた。
「こぼすなよ。このまましばらく横になっとり」
「うん」

さて俺は、どうしたものか…
このまま由紀子が妊娠してしまえば、あとは修羅場が待ち構えている。
則子が狂乱するに違いない。
そして則子の実家が訴訟も辞さないだろう。則子の父は敏腕な弁護士なのである。

それでも、俺は由紀子との生活を夢見ている。
紫煙をくゆらしながら、俺は実感のない未来を想像していた。
少し眠ろう…由美子も微かな寝息を立てていた。

(おわり)