安息香酸はトルエンの酸化で得られます。

以前は、無水フタル酸の脱炭酸で工業的に量産していたようですが、今は、上の図のようにトルエンを直接酸化して得ています。
このような直接酸化は、パラキシレンからテレフタル酸を合成する際に同じ方法を用います。テレフタル酸はベンゼンのパラ位にカルボキシル基を二つ持つ、ポリエステルの重要な原料です。
実験書には過マンガン酸カリウムを硫酸酸性の下でトルエンを酸化させるとできると書かれています。
もう少し付け足すと、トルエンと過マンガン酸カリウム水溶液、硫酸を混ぜて加熱するのです。
トルエンは酸化されるので、還元剤です。
過マンガン酸カリウムは強力な酸化剤で、有機物を容易に酸化させ、ゴムなどは劣化します。
ゆえに過マンガン酸カリウム水溶液の保存や取扱においてゴム製品の使用は厳禁とされています。
MnO₄⁻ +4H⁺ +3e⁻ → MnO₂ +2H₂O …①
上の式は、過マンガン酸イオンが二酸化マンガンに還元される反応で、この反応を利用してトルエンを同時に酸化させるのです。この場合、対イオンのカリウムイオンは関係しません。
反応系の㏗は中性~酸性にしておく必要があり、あとで書きますが、確実に反応を進めるためには酸性条件ですることが必要で、ゆえに「硫酸酸性」の条件が実験書にあるわけです。
アルカリ性で反応を進めようとすると、①式左辺の水素イオンが水酸化物イオンに直ちに消費されて反応が停止してしまうからです。
つまり、この反応には水素イオンが必要で、その供給源である水溶液中でおこなわれる必要があります(硫酸が水の電離をうながす)。
水の電離の要件を①式に反映させます。なお「水の電離」とは水分子が水酸化物イオンと水素イオンに分かれることを言い、水素イオンは実際には「ヒドロニウムイオン、H₃O⁺もしくはH₉O₄⁺」であることに注意してください。化学では水素イオンは実在しません。なぜならそれは水素原子核そのものだからです。便宜上、化学では「H⁺」を「水素イオン」とか「プロトン」と呼びますが、素粒子物理学の世界では厳密に使い分けます。
MnO₄⁻ +2H₂O +3e⁻ → MnO₂ +4OH⁻ …②
この式の右辺から、水酸化物イオンが生まれ、反応が進むと系がアルカリ性になることがわかります。
ということは中性条件では、放っておいてもアルカリ性になってしまい、酸化反応が進みませんので強い硫酸で酸性にしておく必要があるのです。
いっぽう、トルエンの酸化数はー3(メチル基の水素原子の数に等しく、その水素原子がすべて奪われたら炭素原子の電荷はー3)ですね。
φ-CH₃ +2H₂O →φ-COOH +6H⁺ +6e⁻ …③
φはフェニル基、つまりベンゼン環を表しています。
③式右辺の水素イオンは中性条件だと、②式で生まれる水酸化物イオンに直ちに消費されてしまい、反応が進まないのですから、やはり強い硫酸で水の電離を促して水酸化物イオンを供給してやらねばなりません。
ゆえに①式は、次のように書き換えられます。
φ-CH₃ +6OH⁻ → φ-COOH +4H₂O +6e⁻ …④
②×2および④式から、
φ-CH₃ +2MnO₄⁻ →φ-COOH +2MnO₂ +2OH⁻ …⑤
イオン反応式は、
φ-CH₃ +2MnO₄⁻ →φ-COO⁻ +2MnO₂ +OH⁻ +H₂O …⑥
化学反応式は、⑥式にカリウムイオンを加味して、イオンを消します。
φ-CH₃ +2KMnO₄ →φ-COOK +2MnO₂ +KOH +H₂O …⑦
なお、トルエンを穏やかに酸化すると中間でベンズアルデヒドが生じてから安息香酸にまで酸化されることが観察できます。
生体内(ヒトの場合)では、有害なトルエンから、酵素によりベンジルアルコールを経て、さらに酵素によって毒性の低い安息香酸(塩)に酸化されて排泄されるようですが、過剰なトルエンの吸引では血液に乗って、トルエンが脂溶性の細胞膜を溶解し、その溶解が脳内で起こると再起不能の痴呆を生じるそうです。俗に「脳が溶ける」とはこのこと言います。
トルエンは脂肪(脂肪酸や脂肪酸グリセリドなど)を良く溶かします。機会があれば、バターやマーガリンをトルエンに溶かしてみてください。脳の溶ける様子が想像できます。

以前は、無水フタル酸の脱炭酸で工業的に量産していたようですが、今は、上の図のようにトルエンを直接酸化して得ています。
このような直接酸化は、パラキシレンからテレフタル酸を合成する際に同じ方法を用います。テレフタル酸はベンゼンのパラ位にカルボキシル基を二つ持つ、ポリエステルの重要な原料です。
実験書には過マンガン酸カリウムを硫酸酸性の下でトルエンを酸化させるとできると書かれています。
もう少し付け足すと、トルエンと過マンガン酸カリウム水溶液、硫酸を混ぜて加熱するのです。
トルエンは酸化されるので、還元剤です。
過マンガン酸カリウムは強力な酸化剤で、有機物を容易に酸化させ、ゴムなどは劣化します。
ゆえに過マンガン酸カリウム水溶液の保存や取扱においてゴム製品の使用は厳禁とされています。
MnO₄⁻ +4H⁺ +3e⁻ → MnO₂ +2H₂O …①
上の式は、過マンガン酸イオンが二酸化マンガンに還元される反応で、この反応を利用してトルエンを同時に酸化させるのです。この場合、対イオンのカリウムイオンは関係しません。
反応系の㏗は中性~酸性にしておく必要があり、あとで書きますが、確実に反応を進めるためには酸性条件ですることが必要で、ゆえに「硫酸酸性」の条件が実験書にあるわけです。
アルカリ性で反応を進めようとすると、①式左辺の水素イオンが水酸化物イオンに直ちに消費されて反応が停止してしまうからです。
つまり、この反応には水素イオンが必要で、その供給源である水溶液中でおこなわれる必要があります(硫酸が水の電離をうながす)。
水の電離の要件を①式に反映させます。なお「水の電離」とは水分子が水酸化物イオンと水素イオンに分かれることを言い、水素イオンは実際には「ヒドロニウムイオン、H₃O⁺もしくはH₉O₄⁺」であることに注意してください。化学では水素イオンは実在しません。なぜならそれは水素原子核そのものだからです。便宜上、化学では「H⁺」を「水素イオン」とか「プロトン」と呼びますが、素粒子物理学の世界では厳密に使い分けます。
MnO₄⁻ +2H₂O +3e⁻ → MnO₂ +4OH⁻ …②
この式の右辺から、水酸化物イオンが生まれ、反応が進むと系がアルカリ性になることがわかります。
ということは中性条件では、放っておいてもアルカリ性になってしまい、酸化反応が進みませんので強い硫酸で酸性にしておく必要があるのです。
いっぽう、トルエンの酸化数はー3(メチル基の水素原子の数に等しく、その水素原子がすべて奪われたら炭素原子の電荷はー3)ですね。
φ-CH₃ +2H₂O →φ-COOH +6H⁺ +6e⁻ …③
φはフェニル基、つまりベンゼン環を表しています。
③式右辺の水素イオンは中性条件だと、②式で生まれる水酸化物イオンに直ちに消費されてしまい、反応が進まないのですから、やはり強い硫酸で水の電離を促して水酸化物イオンを供給してやらねばなりません。
ゆえに①式は、次のように書き換えられます。
φ-CH₃ +6OH⁻ → φ-COOH +4H₂O +6e⁻ …④
②×2および④式から、
φ-CH₃ +2MnO₄⁻ →φ-COOH +2MnO₂ +2OH⁻ …⑤
イオン反応式は、
φ-CH₃ +2MnO₄⁻ →φ-COO⁻ +2MnO₂ +OH⁻ +H₂O …⑥
化学反応式は、⑥式にカリウムイオンを加味して、イオンを消します。
φ-CH₃ +2KMnO₄ →φ-COOK +2MnO₂ +KOH +H₂O …⑦
なお、トルエンを穏やかに酸化すると中間でベンズアルデヒドが生じてから安息香酸にまで酸化されることが観察できます。
生体内(ヒトの場合)では、有害なトルエンから、酵素によりベンジルアルコールを経て、さらに酵素によって毒性の低い安息香酸(塩)に酸化されて排泄されるようですが、過剰なトルエンの吸引では血液に乗って、トルエンが脂溶性の細胞膜を溶解し、その溶解が脳内で起こると再起不能の痴呆を生じるそうです。俗に「脳が溶ける」とはこのこと言います。
トルエンは脂肪(脂肪酸や脂肪酸グリセリドなど)を良く溶かします。機会があれば、バターやマーガリンをトルエンに溶かしてみてください。脳の溶ける様子が想像できます。