「安息香」は安息香酸のエステルが主成分だけれど、このエステルを加水分解すれば安息香酸が得られます。
結晶性の固体です。

じゃあ「安息香」ってなんなのよ?と疑問もわきます。
実は、私も見たことも嗅いだこともないのです。
調べると「ジャワ原産の香木の樹脂を安息香(ベンゾイン)と呼ぶ」などと書いてあります。
「アンソクコウノキ」というエゴノキの仲間が原木で、ベンゾインの名もそのラテン名に由来するみたい。
ゆえに「亀の甲」の別名を持つベンゼンという有毒な有機化合物の名前もこれから来ています。
※"benzoin"→"benzene"および"benzoic acid"(安息香酸)ただし、有機化学では別に「ベンゾイン」という構造の化合物があり、ベンズアルデヒド2分子から「ベンゾイン縮合」という反応でできるものである。
ベンゼン核(亀の甲)に、一つのカルボキシル基が置換(炭素原子の水素原子と入れ替える)したものが安息香酸であり、カルボキシル基にはカルボニル基(>C=O)という電子吸引性の構造を持つので、ベンゼン核のπ(パイ)電子がその方に引っ張られています。
すると、カルボキシル基から見て、オルトとパラの位置の炭素原子の電子密度が下がり、一方でメタの位置の電子密度が上がる「共鳴構造」が起こります。
このことから、安息香酸の置換反応は「メタ配向性」があるとされ、カルボキシル基から見てメタ位に次の置換基が入りやすいのです。
実際に、安息香酸を硫酸と硝酸の混酸でニトロ化すると、m-ニトロ安息香酸(mはメタ)が収率よくできます。
※「オルト、メタ、パラ」はベンゼン環の二つの置換基の相対的位置関係を言い、二つの置換基が隣り合う位置を「オルト」、一つ空けた位置を「メタ」、向かい合わせの位置を「パラ」と、化合物名の頭につけます。
カルボキシル基をもう少し詳しく見ますと、カルボニル基に隣接して水酸基が結合していて、その酸素原子上の不対電子とカルボニル酸素原子の不対電子と共鳴(電子軌道が重なり電子が行き来する)していることがわかります。
そのことで、酸素原子の末端の電子の存在確率が下がって水素イオンが遊離しやすくなり、酸性を示すのです。
酸とは、ギルバート・ルイス氏の考え方からプロトン(水素イオン、つまり水素原子核、正電荷を持つ)を遊離しやすい性質を言うのでした。
これはフェノール(石炭酸)が酸性を示す場合と全く同じ理由です。フェノールはベンゼン核に直接水酸基が置換した化合物で、その水酸基の酸素原子の不対電子はベンゼン核のπ電子と共鳴しますから、酸素原子上の電子はベンゼン核に引っ張られ、その結果プロトンが遊離しやすくなりますので酸性を示すのです。
これらの考え方は「混成軌道説」が根拠となっています。
有機化合物に特有の「共有結合」は、すべて電子軌道の重なりによる「混成軌道」がつくるからです。
簡単なアルカン(炭化水素のうち一重結合のみの化合物)において、たとえばメタンでは、水素原子のs軌道と炭素原子のp軌道が重なって混成した一重結合で成り立っています(sp混成軌道)。
これはエタンのC-C一重結合も炭素原子のp軌道の重なりでできています(sp₃混成軌道)。
s軌道の重なりによる一重結合をσ(シグマ)結合と呼ぶことにしています。
C-C二重結合はどうでしょう?
たとえばエチレン(エテン)はさらにp軌道の重なりが生じて、σ結合と二重になっています(π結合)。
sp₂混成軌道と呼んだりもします。
アセチレンのような二つのπ結合と一つのσ結合による三重結合をsp混成軌道と呼ぶのです。
実は、p軌道にはデカルト座標を中心に置いて、互いに直交する三つのアレイ(亜鈴)型軌道が存在し、それぞれ軸の向きに応じて、それぞれpx,py,pz軌道と呼んでいますが、各軸を含む座表面で切断した軌道の断面は「8」の字になっています。
これら分子軌道の重なりは、s-s結合(水素分子)以外に、s-px結合(C-H結合)やpx-px結合(C-C結合)もあるわけ。
そこにpy-py結合が炭素間で起こると「二重結合」になり、さらにpz-pz結合が足されると三重結合になるのです。
※炭素原子のs軌道はすでに電子で埋まっているので新たな結合には預かりません。
電子軌道は、そのエネルギー準位によってきまっていて、パウリの禁則に基づき、一つの軌道には電子が二つ入ることができるけれど、互いに電子のスピン(自転方向)が逆である必要があります。
水素原子は陽子1個に電子が1個で、その電荷は中性だけれど、この電子軌道がもっともエネルギー準位が低く、パウリの禁則によれば、あと1つの電子がこの軌道に入れて、その電子のスピンが先の電子の反対の電子でなければいけません。
簡単な例は水素分子です。
水素原子はそのままでは不安定で、かならず水素原子が2つくっついて、s軌道を共有して補い合い、互いにスピンの向きの異なる電子が回るように分子を形成しています。
※私がわからないのは、水素原子がもう一つの水素原子と合体するときに、電子スピンの異なることを選んで結合するのか、もしスピンの向きが同じなら結合できないのだとすると、結合と同時にスピンが真逆になるようなカラクリがあるのか、パウリの禁則がどのように選択的に働くのかということです。だれか教えてくださいな。なお水素原子状態では極めて反応性が高く、人工的には水の電気分解で得ることが可能だそうです。
シュレーディンガー方程式の示すところによれば、水素原子のs軌道は完全な球状(方位量子数が0)だと説明されます。
電子殻(でんしかく)の考え方ではK,L,M…殻のいずれにも、最低エネルギー準位の電子軌道として存在します。1s、2s、3sという風にエネルギー準位が高くなっていきます。
K殻には主量子数が1で、1s軌道しか存在できません。
L殻には主量子数が2で、2sと2p軌道が存在できます。有機化合物(共有結合)はこの殻の電子が関与しています。
M殻には主量子数が3で、3sと3p、3d軌道が存在できます。典型元素の反応はこの殻の電子が関与します。
N殻には主量子数が4で、4s、4p、4d、4f軌道が存在でき、エネルギー準位と軌道順番の逆転が生じる「遷移元素」がここに入ります。
核反応によって作られた元素など、大きな原子核を持つ元素はO殻やP殻まで電子殻を持っています。
安息香酸から話がずれまくりました。
最外殻電子が、無機化学の反応の際に主役を演じるのです。
イオン反応がそうです。
イオンは電子殻のもっとも外側の電子軌道の電子の過不足(希ガスの電子軌道に対して)でその陰陽と大きさを示します。
どれだけ最寄りの希ガスの最外殻(完全充填)から隔たっているかがイオン価の目安です。
ところが、有機化学反応でも、もっとも外側のπ電子、「フロンティア電子」が反応にあずかります。
福井謙一博士の「フロンティア電子論」です。
ディールス・アルダー反応がその典型で、オットー・ディールスとクルト・アルダーはともにノーベル賞に輝きました(1950年)。
この反応の理論的構築は福井博士の「フロンティア電子論」と、その後に発表された、ウッドワードとホフマンによる理論で説明され、福井博士とホフマン博士にノーベル賞が1981年に贈られました。
※ウッドワード博士は残念ながら1979年に亡くなられており、このノーベル賞の対象にはなりませんでした。実はウッドワード博士はビタミンB₁₂などの合成で1965年にノーベル賞を得ておられます。生きておられたら再受賞という栄誉に輝いたはずです。
ディールス・アルダー反応とは簡単には(?)次のような反応です。
ブタジエンとジエノフィル(C-C二重結合以上を持つ化合物一般)が近づいて、π電子の重なりを生じたときに新たな一重の共有結合が生じて二つの分子がひとつになることです。
ブタジエンは典型的な共鳴構造でπ電子が活性化しているので、反応性に富んでいるからなんですが、その根拠は「フロンティア電子論」で説明される通りです。
「電子共鳴」はウッドワード・ホフマン則で説明されますが、分子軌道に踏み込んだ説明は福井博士が彼らより先に提唱していました。
つまりp軌道の重なり、π電子軌道の活性化です。
ジエノフィルのように一つしかない二重結合だけでは起こらないことが、共鳴構造のブタジエンのような化合物が近所にあると起こる反応がディールス・アルダー反応なのです。

私がかつて化学会社に在籍していたときに先輩が、無水マレイン酸と不飽和脂肪酸と反応させる「マレイン化」を研究していたが、あれはディールス・アルダー反応ではなかったか?
無水マレイン酸は、マレイン酸の脱水環化物で、二つのカルボニル基にC-C二重結合が挟まった、ブタジエン様のπ電子共鳴構造を持つ化合物で、オレイン酸やリノール酸などの二重結合を含む脂肪酸と加熱すると化合して環状構造を付与でき、さらに加水分解すれば無水マレイン酸が開らき、カルボキシル基が二つ分子にぶら下がるので、アルカリで中和すれば水溶性を示します(石鹸です)。
安息香酸について書いておかねばいけないことがありました。
トルエン中毒者(あんぱん)の尿から特異的に馬尿酸が検出されます。
法医学では常識らしい。
これはトルエンが体内で酸化されてベンジルアルコールになり、さらに酸化されて安息香酸になり、これがグリシンと化合して馬尿酸になって水溶性が付与され尿中に排泄されます。

トルエンがなければ尿酸(プリン体)になるのがヒトのプリン代謝です。
尿酸の構造式
尿酸は水にほとんど溶けませんが、馬尿酸は体温程度の温水に良く溶けます。
ゆえに、尿酸値の高い尿をする人は尿路結石はもとより、関節に尿酸が析出する痛風に悩まされます。
ウマの仲間は馬尿酸を尿中に排出しますけれども、石になったりはしません。
このようにヒトが馬尿酸を排泄することは、トルエンという有害物質を体内から除きたい結果です。
食品添加物として安息香酸ナトリウムが細菌の繁殖を抑えるのでよく使われます。
人体では、さきほどトルエンの代謝で書いたように、馬尿酸ナトリウムとなって尿中に排泄されるはずです。この場合はトルエン吸引者よりも微量なので、区別できます。
気になる安息香酸ナトリウムの人体への影響ですが、厚生労働省は問題なしと回答しています。
ただ、細菌繁殖抑制には働くが、抗菌性は皆無で、食料品の開封までの安全策にしか利用できません。
結晶性の固体です。

じゃあ「安息香」ってなんなのよ?と疑問もわきます。
実は、私も見たことも嗅いだこともないのです。
調べると「ジャワ原産の香木の樹脂を安息香(ベンゾイン)と呼ぶ」などと書いてあります。
「アンソクコウノキ」というエゴノキの仲間が原木で、ベンゾインの名もそのラテン名に由来するみたい。
ゆえに「亀の甲」の別名を持つベンゼンという有毒な有機化合物の名前もこれから来ています。
※"benzoin"→"benzene"および"benzoic acid"(安息香酸)ただし、有機化学では別に「ベンゾイン」という構造の化合物があり、ベンズアルデヒド2分子から「ベンゾイン縮合」という反応でできるものである。
ベンゼン核(亀の甲)に、一つのカルボキシル基が置換(炭素原子の水素原子と入れ替える)したものが安息香酸であり、カルボキシル基にはカルボニル基(>C=O)という電子吸引性の構造を持つので、ベンゼン核のπ(パイ)電子がその方に引っ張られています。
すると、カルボキシル基から見て、オルトとパラの位置の炭素原子の電子密度が下がり、一方でメタの位置の電子密度が上がる「共鳴構造」が起こります。
このことから、安息香酸の置換反応は「メタ配向性」があるとされ、カルボキシル基から見てメタ位に次の置換基が入りやすいのです。
実際に、安息香酸を硫酸と硝酸の混酸でニトロ化すると、m-ニトロ安息香酸(mはメタ)が収率よくできます。
※「オルト、メタ、パラ」はベンゼン環の二つの置換基の相対的位置関係を言い、二つの置換基が隣り合う位置を「オルト」、一つ空けた位置を「メタ」、向かい合わせの位置を「パラ」と、化合物名の頭につけます。
カルボキシル基をもう少し詳しく見ますと、カルボニル基に隣接して水酸基が結合していて、その酸素原子上の不対電子とカルボニル酸素原子の不対電子と共鳴(電子軌道が重なり電子が行き来する)していることがわかります。
そのことで、酸素原子の末端の電子の存在確率が下がって水素イオンが遊離しやすくなり、酸性を示すのです。
酸とは、ギルバート・ルイス氏の考え方からプロトン(水素イオン、つまり水素原子核、正電荷を持つ)を遊離しやすい性質を言うのでした。
これはフェノール(石炭酸)が酸性を示す場合と全く同じ理由です。フェノールはベンゼン核に直接水酸基が置換した化合物で、その水酸基の酸素原子の不対電子はベンゼン核のπ電子と共鳴しますから、酸素原子上の電子はベンゼン核に引っ張られ、その結果プロトンが遊離しやすくなりますので酸性を示すのです。
これらの考え方は「混成軌道説」が根拠となっています。
有機化合物に特有の「共有結合」は、すべて電子軌道の重なりによる「混成軌道」がつくるからです。
簡単なアルカン(炭化水素のうち一重結合のみの化合物)において、たとえばメタンでは、水素原子のs軌道と炭素原子のp軌道が重なって混成した一重結合で成り立っています(sp混成軌道)。
これはエタンのC-C一重結合も炭素原子のp軌道の重なりでできています(sp₃混成軌道)。
s軌道の重なりによる一重結合をσ(シグマ)結合と呼ぶことにしています。
C-C二重結合はどうでしょう?
たとえばエチレン(エテン)はさらにp軌道の重なりが生じて、σ結合と二重になっています(π結合)。
sp₂混成軌道と呼んだりもします。
アセチレンのような二つのπ結合と一つのσ結合による三重結合をsp混成軌道と呼ぶのです。
実は、p軌道にはデカルト座標を中心に置いて、互いに直交する三つのアレイ(亜鈴)型軌道が存在し、それぞれ軸の向きに応じて、それぞれpx,py,pz軌道と呼んでいますが、各軸を含む座表面で切断した軌道の断面は「8」の字になっています。
これら分子軌道の重なりは、s-s結合(水素分子)以外に、s-px結合(C-H結合)やpx-px結合(C-C結合)もあるわけ。
そこにpy-py結合が炭素間で起こると「二重結合」になり、さらにpz-pz結合が足されると三重結合になるのです。
※炭素原子のs軌道はすでに電子で埋まっているので新たな結合には預かりません。
電子軌道は、そのエネルギー準位によってきまっていて、パウリの禁則に基づき、一つの軌道には電子が二つ入ることができるけれど、互いに電子のスピン(自転方向)が逆である必要があります。
水素原子は陽子1個に電子が1個で、その電荷は中性だけれど、この電子軌道がもっともエネルギー準位が低く、パウリの禁則によれば、あと1つの電子がこの軌道に入れて、その電子のスピンが先の電子の反対の電子でなければいけません。
簡単な例は水素分子です。
水素原子はそのままでは不安定で、かならず水素原子が2つくっついて、s軌道を共有して補い合い、互いにスピンの向きの異なる電子が回るように分子を形成しています。
※私がわからないのは、水素原子がもう一つの水素原子と合体するときに、電子スピンの異なることを選んで結合するのか、もしスピンの向きが同じなら結合できないのだとすると、結合と同時にスピンが真逆になるようなカラクリがあるのか、パウリの禁則がどのように選択的に働くのかということです。だれか教えてくださいな。なお水素原子状態では極めて反応性が高く、人工的には水の電気分解で得ることが可能だそうです。
シュレーディンガー方程式の示すところによれば、水素原子のs軌道は完全な球状(方位量子数が0)だと説明されます。
電子殻(でんしかく)の考え方ではK,L,M…殻のいずれにも、最低エネルギー準位の電子軌道として存在します。1s、2s、3sという風にエネルギー準位が高くなっていきます。
K殻には主量子数が1で、1s軌道しか存在できません。
L殻には主量子数が2で、2sと2p軌道が存在できます。有機化合物(共有結合)はこの殻の電子が関与しています。
M殻には主量子数が3で、3sと3p、3d軌道が存在できます。典型元素の反応はこの殻の電子が関与します。
N殻には主量子数が4で、4s、4p、4d、4f軌道が存在でき、エネルギー準位と軌道順番の逆転が生じる「遷移元素」がここに入ります。
核反応によって作られた元素など、大きな原子核を持つ元素はO殻やP殻まで電子殻を持っています。
安息香酸から話がずれまくりました。
最外殻電子が、無機化学の反応の際に主役を演じるのです。
イオン反応がそうです。
イオンは電子殻のもっとも外側の電子軌道の電子の過不足(希ガスの電子軌道に対して)でその陰陽と大きさを示します。
どれだけ最寄りの希ガスの最外殻(完全充填)から隔たっているかがイオン価の目安です。
ところが、有機化学反応でも、もっとも外側のπ電子、「フロンティア電子」が反応にあずかります。
福井謙一博士の「フロンティア電子論」です。
ディールス・アルダー反応がその典型で、オットー・ディールスとクルト・アルダーはともにノーベル賞に輝きました(1950年)。
この反応の理論的構築は福井博士の「フロンティア電子論」と、その後に発表された、ウッドワードとホフマンによる理論で説明され、福井博士とホフマン博士にノーベル賞が1981年に贈られました。
※ウッドワード博士は残念ながら1979年に亡くなられており、このノーベル賞の対象にはなりませんでした。実はウッドワード博士はビタミンB₁₂などの合成で1965年にノーベル賞を得ておられます。生きておられたら再受賞という栄誉に輝いたはずです。
ディールス・アルダー反応とは簡単には(?)次のような反応です。
ブタジエンとジエノフィル(C-C二重結合以上を持つ化合物一般)が近づいて、π電子の重なりを生じたときに新たな一重の共有結合が生じて二つの分子がひとつになることです。
ブタジエンは典型的な共鳴構造でπ電子が活性化しているので、反応性に富んでいるからなんですが、その根拠は「フロンティア電子論」で説明される通りです。
「電子共鳴」はウッドワード・ホフマン則で説明されますが、分子軌道に踏み込んだ説明は福井博士が彼らより先に提唱していました。
つまりp軌道の重なり、π電子軌道の活性化です。
ジエノフィルのように一つしかない二重結合だけでは起こらないことが、共鳴構造のブタジエンのような化合物が近所にあると起こる反応がディールス・アルダー反応なのです。

私がかつて化学会社に在籍していたときに先輩が、無水マレイン酸と不飽和脂肪酸と反応させる「マレイン化」を研究していたが、あれはディールス・アルダー反応ではなかったか?
無水マレイン酸は、マレイン酸の脱水環化物で、二つのカルボニル基にC-C二重結合が挟まった、ブタジエン様のπ電子共鳴構造を持つ化合物で、オレイン酸やリノール酸などの二重結合を含む脂肪酸と加熱すると化合して環状構造を付与でき、さらに加水分解すれば無水マレイン酸が開らき、カルボキシル基が二つ分子にぶら下がるので、アルカリで中和すれば水溶性を示します(石鹸です)。
安息香酸について書いておかねばいけないことがありました。
トルエン中毒者(あんぱん)の尿から特異的に馬尿酸が検出されます。
法医学では常識らしい。
これはトルエンが体内で酸化されてベンジルアルコールになり、さらに酸化されて安息香酸になり、これがグリシンと化合して馬尿酸になって水溶性が付与され尿中に排泄されます。

トルエンがなければ尿酸(プリン体)になるのがヒトのプリン代謝です。

尿酸は水にほとんど溶けませんが、馬尿酸は体温程度の温水に良く溶けます。
ゆえに、尿酸値の高い尿をする人は尿路結石はもとより、関節に尿酸が析出する痛風に悩まされます。
ウマの仲間は馬尿酸を尿中に排出しますけれども、石になったりはしません。
このようにヒトが馬尿酸を排泄することは、トルエンという有害物質を体内から除きたい結果です。
食品添加物として安息香酸ナトリウムが細菌の繁殖を抑えるのでよく使われます。
人体では、さきほどトルエンの代謝で書いたように、馬尿酸ナトリウムとなって尿中に排泄されるはずです。この場合はトルエン吸引者よりも微量なので、区別できます。
気になる安息香酸ナトリウムの人体への影響ですが、厚生労働省は問題なしと回答しています。
ただ、細菌繁殖抑制には働くが、抗菌性は皆無で、食料品の開封までの安全策にしか利用できません。